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12.『マオさんに関する昔話』 12-1

 ブラッディマリー、レッドアイ、レッドアイ、ブラッディマリー……そんな繰り返しが幾度もあって、わたしは珍しく、なかば、酔い潰れていた。


 近所の安い『バー』。ピアノトリオのジャズが多少のひずんだノイズを含みながらスピーカーから流れていて、テーブルを挟んだ向こうにはミン刑事の姿がある。もう零時を回っている。


「飲み過ぎじゃねーか? メイヤ」

「そうですね。飲みすぎています。だけど、ミン刑事の前だから気を緩めているんです」

「そう言われると、悪い気はしねーが」

「大丈夫です。一人で帰れますから」

「まあ、おまえに下手に絡もうもんなら、暴漢も火傷じゃ済まないことだろうがな。にしても」

「ひょっとして、ミン刑事もわたしに可愛げがなくなったとおっしゃるんですか?」

「そんなことはない。逞しくなったことについては清々しく思っているくらいだ。頼もしくなったとも感じているしな。おまえのことを娘のように思っているからこそ、尚更、喜ばしい話だ」


 わたしは野球でいうところのヘッドスライディングをするような格好で、テーブルに突っ伏した。顔を上げる。微笑んでいるミン刑事がいる。


「ミン刑事には、まだまだまだまだ子供扱いされているように感じます」

「だからそれは、俺がおまえのことを、娘みたいに思っているからだよ」

「わたしに不足しているファクターはなんなのでしょうか」

「何も不足しちゃいない。すくすく育っていて、見ている側としては実に気持ちがいい」

「今更なんですけれど」

「あん?」

「今日は飲みに付き合っていただき、ありがとうございます」

「いいんだ、そんなこた。おまえから誘われたら、どこにだって出向くさ」


 ミン刑事との付き合いも三年目を迎えた。仲良くやってきたつもりだ。賄賂まみれの悪徳刑事が多い中にあって、彼は信頼できる人物だと、わたしはずっと前から思っている。


「そういえば」

「なんだ?」

「ミン刑事はマオさんの過去をご存じだって言っていましたよね?」

「ああ。知っいるよ。なんだかんだ言って、アイツとは二十年くらいの付き合いだからな」

「マオさんはわたしにたくさんのお金を残されていきました」

「ああ」

「その理由について、お伺いしてもよろしいですか?」

「いいさ。いよいよそう来たかって感じだな。それもこれも、おまえが大人になったってことの証左なんだろうが」

「マオさんのルーツを知りたいんです。誰よりも彼のことを知っておきたいんです」

「わかるよ。ヒトは想い人のすべてを知りたがる。おまえもそれにたがわずってわけだ」

「はい」

「本当に昔話だ。当時を懐かしみ、噛み締めながら、俺も話をさせてもらうことにするよ」


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