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後日、午前の外回りの最中、街の大通りで右脚が不自由そうな人物を見付けた。濃緑色のつなぎを着た男がびっこを引いているのである。細面に切れ長の目。加えて長身。先だっての爆弾騒ぎの犯人像と一致する。ぱっと見、目立つニンゲンだ。だから職質くらいは受けたのではないかと推測される。それでもなんの手掛かりも得られなかったから、ミン刑事からの続報はないのではないか。そう予感させられた。しかし、警察にはまだ見咎められていない可能性だってなくはない。
わたしは擦れ違いざまに、男の二の腕を掴み、制止させた。前を向いたまま、「ちょっと待ってもらえる?」と伝えた。彼も前方に目をやったままでいる。それから「お嬢さん。何か用か?」と問うてきた。
「最近、この街で騒がれている爆弾騒動は知ってる?」
「ああ。メディアで散々垂れ流されているからな」
「そうよ。でね? 犯人の特徴と貴方の見た目が一致しすぎているのよ」
「だから、俺に足を止めさせたと?」
「警察から職質は? 受けていないの?」
「今のところ、何かを問い質されたりはしていないな」
「だったら、いよいよ怪しいわ」
「その義務はないが、あえて教えてやろう。犯人は俺だよ」
「あっさり答えるのね」
「俺は腹に爆弾を巻いている。ポケットにある起爆装置で爆発する」
「ブラフじゃないの?」
「だったらボタンを押して証明してやろうか?」
組み伏せてやろうかと考える。でも、男の言うことが本当だった場合、何かの拍子にボタンに指を掛けられたら、その時点でおしまいだ。この場においては見逃すしかない。
「爆弾の入手ルートは?」
「さあ。どうだったかな」
「とぼけないで」
「俺は自分が犯人だとうたった。それだけで充分だろう?」
「何が目的なの?」
「邪魔なんだよ」
「邪魔?」
「ああ。俺と同じかたちをしている連中がゆるせないんだ」
「そんな理由でヒトを殺めて、また続けて殺そうとするの?」
「常人には理解できないかもしれないが、俺にはその理由だけで充分だ。とにかく皆殺しにしてやりたいのさ。さあ、お嬢さん。手をはなしてもらおうか。今のアンタには何もできないはずだ」
「悔しいけど、正論ね」
わたしは止む無く拘束を解いた。男が向こうへと去りゆく。その背を見送るしかなかった。ことの次第はミン刑事に、ひいては警察に説明する必要があるだろう。




