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7-3

 七時に目が覚めた。デスクにつき、コーヒーを飲みながら朝刊を読んでいた。一面に、公園で爆発、死亡した男性の記事が載っていた。顔写真と名前も掲載されている。


 この街で爆弾騒ぎなど、あまり耳にしたことがない。そもそもプラスティック爆弾なんて、そう簡単に入手できるものでもないだろう。確たるルートを持っていなければ不可能であるはずだ。何より犯人の目的がわからない。ただの愉快犯なのだろうか。にしたって、やることの度が過ぎる。


 先日、ミン刑事にも伝えたことではあるけれど、わたしは街が平和であってほしい。その思いはいつだってブレたりしない。


 まさか昨日の今日で何か目ぼしい情報が得られるわけがないと考え、通常業務、九時を迎えたところで、外回りに出た。


 商店を訪れて何か用件がないか聞いて回り、友人と出会えば談笑する。そんなふうにして街をゆく最中に、絹を切り裂くような女性の悲鳴を聞いた。続いて、「俺は爆弾を持っているぞ! とっとと逃げろ!」という大声がした。


 悲鳴、そして大声が聞こえてきたほうへと急行する。大通りの歩道に、茶色いジャケットを着た男が立っていた。前が開いている上着からは、確かにプラスティック爆弾らしき物が覗いている。


 爆弾はやはり鎖でぐるぐる巻きにされているようだ。逃げ惑う人々と擦れ違い、わたしは前進した。男から少々距離を置いたところに立つ。


「そんなところに突っ立ってないで、アンタも逃げろよ」

「爆弾ははずせない?」

「無理だ」

「誰かに巻き付けられたわけね」

「ああ。そんなこと知ってどうするんだ?」

「わたしは探偵なの」

「探偵?」

「爆弾は時限式?」

「そう聞かされた」

「それで、どうしてわざわざ街に出てきたの?」

「息子を人質に取られてる。どっかに監禁されているらしい。やっぱり爆弾を仕掛けたそうだ。俺が街で自爆したら、息子の命は助けてやるって約束してくれた。だから俺には選択の余地なんてなかった。それでもな、いくら息子の身が危なかろうが、俺は爆破にヒトを巻き込むなんて真似はしたくねーんだよ」

「でも、例えば犯人の目的が大量殺人だったとした場合、貴方がなんの成果も上げないようなら、結局のところ、息子さんに被害が及ぶかもしれないわよ?」

「それでも、したくねーことは、できねーんだ」

「もう時間はないの?」

「あと三分ってところだ」

「確認させて。犯人は男?」

「そうだよ。知り合いだ」

「単独犯だと思う?」

「そうだろうよ。昔から群れたがるような男じゃなかったからな」

「犯人の住所と名前は?」


 男は住所を教えてくれた上で、犯人の名についても言及してくれた。住所は、とあるフートンに面した比較的新しく、大きなアパートの一室だ。爆弾騒ぎを起こしている人物の名ははホウ・シンサンというらしい。


「わかったわ。話してくれて、ありがとう」

「探偵さんは警察と仲良しなのか?」

「それなりにね。貴方の名前は?」

「ユーハンだ。コウ・ユーハン」

「じゃあ、息子さんの名前は?」

「イーハンだ。できればでいい。助けてやってほしい。さあ、行けよ。もう俺には逃げ道なんてねーんだから」

「そうさせてもらうわ。天国でも達者にね」

「そんな気のきいたところがありゃいいんだけど」


 身を翻し、わたしは次の角で右に折れた。途端、どーんという大きな爆音があたりに鳴り響いた。


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