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五日後の午前中。
ルイ刑事と近所の喫茶店で落ち合った。くだんの人質事件の顛末について、話してくれるとのことだった。
わたしの前にもルイ刑事の前にもアイスコーヒーが置かれた。
「犯人の男ですが、彼は隣街の『鈴麗路』で射殺されました」
「どういうことですか?」
「逃げようしたところを仕留めたらしいです」
「逃げようとしたということは、また何かしでかしたと?」
「同様の人質事件を、今度は小さな『宝石店』でやらかしたんですよ」
「同様の? 同じ人質を使ってですか?」
「そういうことです」
「どういう状況だったんでしょうか」
「人質女性を先に入店させた上で押し入ったようです。『宝石店』を狙った理由としては、一件目で味を占めたというか、気が大きくなったからでしょうね。宝石を幾つか見繕った上で、身代金までせしめようとした」
「人質の女性は? 首尾良く助けることができたんですか?」
「いえ。犯人とともに、射殺されました」
「えっ」
「『鈴麗路』の警察いわく、彼女は徹底抗戦の構えを見せたとのことでした」
「それはまた、どうしてですか?」
「事後、調べがついたことなんですが、どうやら犯人と被害者とされていた女性は、恋人同士だったらしいんです」
「恋人? ということは、最初から二人はグルだったと?」
「そういうことになりますね」
「女性が銃を手にしたのはどうしてでしょうか。あくまでも人質を装っていれば、自分の身だけは助かったのかもしれないのに」
「恋人が殺され、気が動転してしまったのでは?」
「まあ、そう考えるのが、もっとも自然かもしれませんね」
「ええ。とりあえず、上手く回りましたよ。事件を速やかに処理することができたわけですから」
「警察官らしいご意見ですね」
「いけませんか?」
「確保できる可能性があるなら、そうすべきだったと思います」
「銃撃されては反撃するしかありません。まあ、若干、『鈴麗路』の警察は血の気が多いように感じますが」
「仮にそうだとすると、始末が悪いなあ。ハッピートリガーの集まりなんでしょうか」
「彼らには彼らなりの正義感があるんでしょう」
「ともすれば、正義感というのは暴走に繋がります」
「一般論ですか?」
「はい。市民の安全を担う警察官には常に冷静であっていただきたいものです」
「そうおっしゃられるくらいなら、メイヤさんご自身が警察官になればいい。歓迎しますよ」
「話をすり替えないでください。わたしは現状について物を言っています」
「理解しているつもりです」
「どうかルイ刑事だけは道を踏み外しませんように」
「肝に銘じておきますよ。あっ、ところで」
「なんでしょう?」
「メイヤさんと呼称させていただくのは、失礼にあたるでしょうか?」
「わたしはルイ刑事と呼ばせていただくことにしたんです。逆もまたしかりということです」
「わかりました。では、今後も遠慮なく」
「そうなさってください」
「また何かの折には連絡します。貴女とあまり仲良くするようだと、ミン刑事に妬かれてしまうかもしれませんが」
「ジョークですか?」
「ちょっとした本心ですよ」
ルイ刑事は「では、失礼」と言うと、伝票を持って立ち上がり、レジで会計を終えて出ていった。結局、ドリンクにはほとんど口を付けなかった。基本的に事務的なニンゲンなのだろう。




