5-4
翌日の夜。
どういう手段を用いたのかはわからないけれど、ルイ刑事が一人の中毒者の居所を突き止めた。付き合ってくれと言われたわけではない。でも、わたしは住所を聞き出し、現場に向かうことにした。彼のお手並みを拝見したいと考えた。
路地に面した、さびれたアパートの一室。
ドアは施錠されていなかった。ルイ刑事が懐から抜き払った拳銃を構えつつ、部屋の中に押し入った。歩を進め、リビングでうずくまったまま「はあはあ」と荒い息をしている男の背に銃口を向ける。
「警察です。大人しくしてください」
「俺は大人しくしているだろうが……」
「”蛾”をやっていると聞きました。確かな情報を掴んでいます」
「お縄を頂戴しろって言うのか?」
「ええ」
「そのつもりはねーよ!」
男は勢い良く立ち上がって振り返るなり、ルイ刑事に襲い掛かった。彼は銃を素早く捨て、肉弾戦に応じる。二人は取っ組み合いの格好になる。
たたずまいからしてそうだったが、ルイ刑事は体術に長けているようだ。すぐさま相手の右腕を捻り上げ、背後に回った。前に押し倒して組み伏せる。わたしが「やりますね」と言うと、彼は微笑みながら、「まあ、これくらいは」と答えた。
ルイ刑事が二人の制服警官に「探せ」と命じ、そのうち、小さなタンスの引き出しからビニール袋に入った白い粉が見つかった。”蛾”なのだろう。
「どこで誰から買ったんですか?」
「んなこと言うかよ、刑事さん」
右肩を外して「ぎゃあ!」と喚かせると、今度はマウントをとって、一発、相手の顔面を殴り付けたルイ刑事である。容赦のない尋問だ。意外と凶暴な人物なのかもしれない。しかし鼻血を垂らしながらも、男は「言わねーよ。言ってたまるかよ」と拒んだ。
「どうして吐いてくださらないんですか?」
「口を割ったら、俺がヤクザどもに殺されちまうかもしれねーだろうが」
「そうかもしれませんが」
「とにかく俺は何も吐かねーよ」
「貴方にはもう、黄金の蛾が見えるんですか?」
「ちらっとな。悪くない感覚だよ。いっときとは言え、現実を忘れられる」
「もう立派な中毒者ですね、貴方は」
そう言うなり、ルイ刑事は立ち上がり、男の顔面を強く踏み付けた。後頭部を打ち付けられ気絶したようである。穏やかそうな見た目とは違い、やはり彼はことのほか無情であるようだ。見誤っていたというより、ちょっと見直した。
「メイヤさん、謝罪します。貴女にご足労いただくまでもなかったですね」
「いえ。わたしが勝手に来ただけですから。それで、以降も”蛾”を追おうとお考えなんですか?」
「ミン刑事からの厳命であり、私の任務ですからね。撲滅する必要性があると考えています」
「長い戦いになると思いますよ?」
「それは覚悟しています」




