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大通りの『花屋』で薔薇の花束を買い、タクシーに乗った。二十分ほどで郊外にある目的地に到着。狭い墓地だ。はっきり言って、さびれている。古くなった花の処理はされていないし、網目状のフェンスは茶色く錆び付いている。だけど、この界隈の墓場なんて、どこも似たり寄ったりのはずだ。こまめに手入れがされているところなんてないと思う。
歩みを進め、シャオメイさんのお墓の前に立った。小さな墓石だ。だけど、マオさんは精一杯の愛情を込めて建てたのだろう。
墓石に向かって一礼してから、花を供えた。風がひゅうと吹いて、わたしの長い髪が横になびいた。
わたしはシャオメイさんの姿を見たことがない。マオさんは写真すら持っていなかった。彼女が死んだ時に処分してしまったのだろうか。いや、違う。二人は写真なんか撮らなかったのだろう。なんとなく、そんな気がする。
ふと口をついて、「シャオメイさん。貴方はどうやってマオさんに深く深く愛されたんですか?」という言葉が出てきた。小さな声で呟くように言った。
マオさんがわたしのために狼に復讐しようとしていることは、多少ならず嬉しい。だけど、本音を言うと、彼にはそばにいてほしかった。やっぱり誰よりも近くで見守っていてほしかった。
マオさん以上に大切なヒトなんていない。わたしからすれば、男性と呼べるのは彼だけだ。
そういった想いが伝わっていなかったとは思わない。むしろ響いていたはずだ。子供扱いされっぱなしだったけれど、気持ちは伝わっていたはずだ。
「シャオメイさん。マオさんはどこでどうしていらっしゃいますか? 天国からなら見付けられませんか?」
彼の顔が頭に浮かぶ。あまり笑うヒトじゃなかった。でも、時折見せる微笑みは、実に優しげなものだった。とてもじゃないけれど、忘れられそうもない。ずっとずっとついて回る記憶なのだろう。
ひょっとしたら、もう一生、会えないのかもしれない。だけど、帰ってくると信じたい。信じていたい。また会いたい。強く強くそう願う。
シャオメイさんのことが、羨ましい。彼と何度もキスをしたことだろうから。
彼と何度も体を重ね合ったことだろうから。
そうするつもりは微塵もなかったのに、左の目尻から頬にかけて涙が伝った。
悔しさの涙だった。




