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41.『”狼”』

「マオ、問いたいんだ」

「なんでも訊いてください」

「鬼ごっこは楽しかったかい?」

「残念ながら、楽しくはありませんでしたよ」

「君に追われるようになったのは、どうしてだったかな?」

「お忘れなんですか?」

「いいや。実はよく理解しているんだ。メイヤちゃん、もうメイヤさんなのかな。僕が彼女を傷付けたのが、その要因だったね」

「ええ」

「彼女の魂の輝きは綺麗だ。それは確たるものだし、美しいとも言うことが出来る。まさに資質だよ。本質的には、誰も彼女を傷付けることは出来やしないんだ」

「同感です」

「メイヤさんと会ってからこっち、君は彼女に振り回されっぱなしだったのかな? それとも、そうではない?」

「どちらも正解です。彼女の奔放さには手を焼きました。しかし、彼女の笑顔は私に喜びをくれた」

「何よりいつも彼女は君のそばにいた。居続けようとして、実際、居続けた」

「ありがたい話でした。こんな私を愛してくれたんですから」

「おや。自らを卑下するのかい?」

「そうですね。言われてみると、らしくない」

「後悔は?」

「ありません」

「絶望は?」

「ありません」

「欲しいものは?」

「ありません」

「大切なものは?」

「これからも、この先も、メイヤ君です」

「最後に、いや、最期に問おう」

「はい」

「ねぇ、マオ。僕達はどうしてこの世に産まれ落ちたんだと思う?」

「簡単です」

「聞かせてくれないかな」

「こうして、やり合うためですよ」

「運命なんだね」

「運命ですよ」

「宿命なんだね」

「その通りです」

「遺言はあるかい?」

「それはこっちの台詞です」

「では」

「ええ。かかってきてください」


 私は銃口を”狼”に向けた。

 ”狼”は懐からバタフライナイフを取り出した。


 ここからはもう、至極、容易な話だ。


 ”狼”が突っ込んでくる。

 私は撃たない。

 けして、撃たない。


 突進してくるなか、”狼”が微笑んでいるのが見えた。


 腹部を深く刺される。

 音はしない。

 今度は喉元を鮮やかに掻き切られた。

 やはり、音は、しない。


 私は素早く左手を伸ばし、”狼”のことを抱き寄せ、抱き締めた。


「まさか、君は最初から……」

「ええ。相討ちです。銃には一発しか入っていません。一発しか必要ありませんから」


 銃を撃ったところで当たるわけがないという確信めいた予感があった。

 いずれ弾切れに追い込まれ、だからどの道、勝てないこともわかっていた。

 だったら、覚悟を決めて、とっとと終わらせたほうが話は早い。

 無駄な足掻きをしようなどという気は、元より、ない。


「僕の負けだね」

「いいえ。引き分けですよ」

「いいや。僕の負けだ」

「そうですか」


 左のこめかみを撃ち抜いてやった。


 ”狼”は静かに目を閉じ、「サヨウナラ」と言って、仰向けに倒れた。

 その上に被さるようにして、私はうつぶせに倒れた。


 それが私の終わりだった。


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