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40-2

 夜になって、”狼”の背を見付けた。白いポニーテールに真っ白なロングコート。恐ろしく目立つ風貌なのに警察の手にもかからず、悠々と街を泳ぎ回れることについては、やはり感嘆せざるを得ない。彼のあらゆる能力が抜きんでていることの証左でもある。


 そんな”狼”だ。あとをつける私の存在には、とっくに気付いている。警察官の気配は感じない。ミン刑事が私の言い分を聞き入れる格好で折れてくれたのだろう。


 一歩、また一歩と、踏み締めるようにして『フートン』をゆく。不思議な感覚だ。前を向いていなくても、勝手に体が引っ張られる。これも”狼”の能力なのか、あるいは魅力、カリスマ性なのか。


 小さく俯きながらの道中、自らが生きてきた歴史、道程が、頭を駆け巡った。ヒトに言わせれば、ろくな人生ではなかったかもしれない。あるいは、幸せなヤツだと羨ましがられるかもしれない。


 本人として言えることは、少なくとも、自分はいつも自分らしい選択をし、人生を送ってきたということだ。


 後悔がまったくなかったかと問われれば、あったと答えるより他にない。しかし、誰もが、みな、そういうものだろう。前進し、時にちょっと振り返り、だから過去を悔やむ。


 それでも生き続ける。生き続けなければならない。そうでなければ、ニンゲンとは言えない。


 様々な出会いがあった。別れもあった。喜びもあれば悲しみもあった。

 関わってきた、関わってくれた、すべての人々に感謝したい。

 私というちっぽけな存在を受け容れてくれた世界にも感謝したい。

 私はずっと自由だった。

 だから、自由であり続けようと思う。


 路地に入り、しばらく進んだところで、体が引っ張られる感覚がんだ。


 顔を上げ、真っ直ぐに前を向く。

 十メートルほど先に、果ては伝説と昇華されるかもしれない”狼”の姿。


「やあ、マオ。やっと二人きりになれたね」


 ああ、その通りだ。

 ようやく、ここまで来た、辿り着いた。


 恨む気はない。

 憎しみも、もうない。


 あるのはやはり、覚悟だけだ。


 彼と過ごす時間は、ごく短いものになるだろう。


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