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現場は古臭いアパートの前の路地だった。頭から大量に出血している男の子が仰向けに倒れている。歳は五つか六つといったところだろうか。建物は五階まであり、上から落ちたであろうことが窺い知れた。
「見ての通り、頭を強打して即死だったようだ。しかし、こんなガキの死体を拝むことになるとはな。やりきれねーよ」
「確かにそうですね。見ていてつらいです」
「急に大人になったとはいえ、おまえがまともな神経をしていることは喜ばしい」
「ヒトの死については、ある程度割り切っているつもりなんですけれどね。やっぱり他殺ですか?」
「そうだ。犯人らしき野郎はわかっている」
「だとしたら、どうしてわたしを連れてきたんですか?」
「殺した動機がわからねーんだよ」
「もう取り調べを?」
「いや。詳細はまだだ」
「それなら、これから強引にでも犯人の口を割らせれば済むのでは?」
「改めておまえの力量を試したいのさ」
「わたしの探偵としての腕を買っているとおっしゃったように思いますけれ」
「とにかく、解決してみろ。訊きたいことがあるなら受け付けるぜ」
「そうですね。じゃあ例えば犯行時刻は?」
「十八時半頃らしい」
「男の子の名前は?」
「それって重要か?」
「一応の確認です」
「ジョ・ハオユウっていうそうだ。珍しい名前でもないわな」
「犯人と男の子との間には、何か関係性があったんですか?」
「あったよ。犯人は被害者宅の隣室に住んでいる夫婦の夫なんだが、ガキをえらく可愛がっていたそうでな。家族ぐるみの付き合いでもあったようだ。やっこさんはたびたびガキを招いて、将棋やらオセロやらの相手をしてやっていたらしい」
「その夫は今日も男の子と遊んでやっていた?」
「ああ」
「ふーむ」
「何かピンと来たりするか?」
「話を聞くに、まるで動機がないと言っても過言ではありませんね」
「そう言っている」
「わかりました。ちょっと探りを入れてみます」
「被害者のガキが住んでいたのは最上階の五階。階段を上って左手にある角部屋だ」
「調査は明日からでもかまいませんか? 時間も時間なので」
「かまわん。それでいい」




