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39-2

 外回りを始めた。あちこちの商店のあるじやその奥様は、わたしの顔を見ると、揃って、「メイヤちゃん、どうしたんだい?」と訊いてくる。精一杯、微笑むのだけれど、あるいは疲れた顔をしているように映るのかもしれない。

 

 ジム通いも再開した。もやもやとした、いや、確たる不安な思いを払拭すべく、気持ちをぶつけるようにしてサンドバッグを殴り、蹴る。続いてスパーリング。五分が通常のリミットなのだけれど、十分でお願いした。体内時計で七分が過ぎたところで、ボディブローやローキックが効いたのだろう、向こうは片膝をついた。相当、熱くなっていたらしく、無我夢中で顔面を蹴飛ばそうとした。師匠であるニウ老人の「待て!」という大きな声を聞いて、はっと我に返った。「ごめんなさい……」と言いつつ、相手に手を貸す。


 リングをおり、パイプ椅子に座っているニウ老人にも「すみませんでした」と頭を下げた。


「どうしたんじゃ、メイヤ。何かあったのかい?」


 わたしは首を前にもたげた。もう一度、「すみません……」と謝罪した。


「拳も脚も悲鳴を上げているように見える」

「どこも痛くはありませんけれど……」

「そうじゃない。叫びじゃ」

「叫び?」

「ああ。悲しい叫びじゃ」

「……これからもご指導、お願いします」

「それはかまわん。じゃが、今ある感情をおさめてから来るようにしなさい」

「はい……」



 シュウマイを買って、事務所に戻った。マオさんの姿は、やはりない。


 紙の箱を開けて、割り箸を使ってシュウマイを頬張り、はふはふと口を動かした。五個入っていたのだけれど、あっという間にたいらげた。空腹感がなくても食べようと思えば食べれるじゃないと自分に感心するとともに、わたしはこんなところでじっとしているだけでいいのかとも思えてきた。


 いつだってアクティヴなのが、わたしだ。だけど、マオさんから言わば「待て」を言い付けられているわけで……。だから、軽々に動くことは出来ないわけで……。


 翼をもがれてしまった鳥のような心境だ。


 マオさんが何も言わない以上、現状、収穫はないのだろう。あれきり、ミン刑事からの連絡もない。プライオリティを最大値まで引き上げた上で捜査を継続しているに違いない。


 本当に、今のわたしにはやることがない。出来ることもない。


 苦笑が浮かんだ。


 本気で「わたしは何も気にしていない」と言っているのに、どうして男達はわたしのために、自らの身の危険も顧みず、日夜、働き続けるのだろう。


 連続殺人犯なのだから、警察が追うのはわかる。だけど、マオさんはそうする必要はないのだし、もうそうしないで欲しいとも思う。


 彼は「キレてしまっている」と言っていた。


 そうである以上、彼を抑え、繋ぎ止めるなんてことは不可能なのだろうか。


 それがわかっていても、自らの無力さを呪わずにはいられない。


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