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35-2

 わたしにとって、マオさんは唯一無二の存在だ。そんなこと、今更言うまでもない。とても大事なヒトだ。代わりなんていない。だから、また目の前に姿を見せてくれたことについてはとても嬉しく思っている。ヒトを愛するっていうことはこういうモノなんだなあと女心に自覚したりもしている。


 だけど、生きてきた中で、忘れられないニンゲンってのもいる。それは、巨大な暴力団である『フー』の直参であったにも関わらず、彼らを裏切り、見限った人物のことだ。


 その男の名は、ミカミ・カズヤ。『グウェイ・レン』というヤクザの親分だった。妙な男だった。変な男でもあった。だけど、一本、すじが通っているようにも見えた。彼とは二度、喧嘩をした経験がある。それってもはやいい思い出だ。正々堂々と向かってくる様子には潔さを覚えた。こんなヤツもいるんだなあとなかば感心させられたくらいである。


 ミカミはとにかく自由でいたかったのだろう。だから、クーデターに与することもなかったし、早々に『虎』から身を引いたのだ。面白おかしく人生を送りたい。彼にあったのは、本当にその一心だけだったのではないか。


 しかし、組織を抜けるということは、親が掲げている看板を蔑み、また親の顔に泥を塗ることになる。そのことが、クーデターを起こした張本人であるサクライという男からすれば、我慢ならなかったのだろう。だから、ミカミを処分の対象とされた。まったく馬鹿げた話だと思う。自らに牙をむいてこない限りは、わざわざ始末することはなかっただろうに。


 わたしも的にかけられた。ことらとしては、青少年にクスリを売るなとというささやかな啓蒙活動をしていただけなのだけれど、サクライがトップとなった『虎』はどんな小さな芽でも摘み取るつもりだったらしい。


 そんな危険の中にあって、ミカミに救われたのだ。彼は喧嘩相手としてこちらのことを買ってくれていたのかもしれない。あるい、わたしに惚れていたのかもしれない。


 とにかく彼は助けてくれた。『虎』が送り込んできた刺客の前に立ちはだかり、銃弾を身に浴びながらも盾になってくれて、「早く逃げろ!」と言ってくれた。男気を感じた。優しさも。一生、彼のことを忘れたりはしない。また忘れるようなことがあってはならないと思う。


 その一連の流れを、マオさんに話した。


「『グウェイ・レン』か。名前だけは知っているよ。『虎』にあってはトラブルメーカーだと聞いた覚えがある」

「ミカミは勇敢な男でした」

「君の話を聞くに、そういうことなんだろう」

「彼には感謝しないといけませんね」

「まさにその通りだ。そのミカミがいなかったら、わたしは君と会えなかったのかもしれないんだからね」

「そう思います」

「想うに足るような人物だったかい?」

「あ、マオさんってば嫉妬してます?」

「ほんの少しだけね」


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