35.『正義の名のもとに』 35-1
出来ることなら、マオさんにずっとくっついていたい。ソファの上でべたぁとしなだれかかって、その上で深いキスとかしてもら最高だ。だけど、そんなことを望み、また行動に移そうものなら、「メイヤ君、やめなさい。うっとうしいから」だとか、「キスなんていつでもできるだろう?」だとか、そんな素っ気ない言葉が返ってくるような気がする。マオさんは今日も平常運転。デスクについて朝刊を読んでいる。もう体を重ね合った仲なのだから、もう少しかまってくれてもいいだろうに。
そんな気分に駆られている最中に、ふと思い出したことがあった。デスクに両手をつき、「マオさん、マオさん」と呼び掛ける。
「なんだい?」
「デスクの引き出しを開けてみてください」
「どうしてだい?」
「見ればわかりますよ」
マオさんは畳んだ新聞をデスクに置き、引き出しを開けた。中から取り出したのは一枚の写真だ。わたしが以前、ミスコンで優勝した時に撮られたものである。白いビキニ姿のわたしは金色の冠をかぶり、前が開いた大げさな赤いガウンを羽織っている。
「どうです? 美しいでしょう?」
「そうだね。美しいね」
「またそうやって気のない返事をするー」
「自分から進んで出場したのかい?」
「そんなつもりはなかったんですけれど、色々とありまして」
「いい写真であることは間違いない」
「ですよね? ですよね?」
「だけど、自らの美貌をひけらかすことは感心しないね」
「男性陣の目の保養には貢献したと思いますよ??」
「君には安っぽくあって欲しくない」
「そこにあるのは愛ですか?」
「かもしれないね」
「はぐらかさないでくださいよぅ」
「それが私のキャラクターだ」
「シャオメイさんより、わたしのほうが上ですか?」
「いきなり突拍子もないことを訊いてくるね」
「どうですか?」
「比べようがないよ」
「死んでしまったヒトは美化されますよね?」
「私にそのつもりはないよ。シャオメイは綺麗だったし、君もまた綺麗だ」
「なんにせよ、わたしはオンリーワンということですか?」
「そりゃあね」
「そうお思いなら、今夜もホテルに連れ込んでください」
「遠慮しておくよ」
「どうしてですか?」
「君とセックスをすると疲れてしまうからだ」
「ヒドいことをおっしゃいますね」
「事実を言っているだけだよ」
「でしたら、わたしが頑張ります」
「君は性欲旺盛だね」
「お年頃ですから」




