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34-2

 昼間、行きつけの美容室を訪れると、わたしの髪にいつもハサミを入れてくれるおねえさんは、目を大きくして、とても驚いたようだった。彼女はマオさんのヘアスタイルを一度整えたことがあり、また、彼が突如としてわたしの前から姿を消してしまったことも知っている。


 おねえさんは「そうですか。マオさん、帰ってきたんですね……」と言うと、感極まったのか、目にじんわりと涙を浮かべた。「まあ、色々とありまして」と言いつつ、彼は彼女が勧めたスタイリングチェアに座った。


 長めに残してもらった前髪にはパーマをかけてもらい、後ろ髪はうなじに届くくらい。以前と同じく、見事にわたし好みのマオさんに仕上がった。


 帰り道の途中にある店で麻婆豆腐を食べた。食事を持ってきてくれた主人が「マオさんじゃないかい。久しぶりだね」と彼に気軽に声を掛けた。「本当にご無沙汰だ。今までどこに行っていたんだい?」続けて訊いた。


 マオさんはまた、「色々ありまして」と言葉を濁した。まあ、一からヒトに説明するにはことが大きすぎるし、話す必要もないだろう。


 街行くヒトがマオさんに声を掛ける。言葉少なに答える彼。あるおばさんはに至っては、「メイヤちゃん、良かったねぇ。これで安心だねぇ」と口にした。


 確かに安心だ。加えて、マオさんの隣を歩いていると誇らしい気持ちになる。逐一、マオさんに協力してもらおうだなんて考えていないけれど、いざとなったら助けてくれる存在がいることほど心強いことはない。


 マオさんのこと、もう離さないぞと思う。彼がまたこの街から姿を消すような羽目になったら、必ず連れていってもらおうと考える。”狼”を捕らえるにあたって、わたしは足手まといになるかもしれない。だけど、なんらかの役には立つと信じたい。


「マオさん、マオさん、ねぇ、マオさん」

「だから、一度呼ばれれば返事をするよ」

「わたし、今、とっても幸せなんですけれど、そう思うことは時期尚早でしょうか」

「そうだね。少なくとも私はまだ何も成し遂げていないわけだから。でもね、思うんだ。ここに戻ってきて良かったな、って」

「それって、どうしてですか?」

「君にまた、会うことができたからだ」


 キュンとなった。胸が締め付けられるほどに。


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