2-8
翌朝。
ソウロンの父親であり、『四星』のボスであるワンロンに、事務所へと呼び出された。彼はマホガニーの机の向こうで回転椅子に座っている。
「残念だったわね」
「ああ。鉄針で殺されたと聞いた」
「今時珍しい武器よね」
「ラオファの仕業だろう」
「ラオファ?」
「この界隈でいっとう金のかかる殺し屋だ。武器はなんでも使うらしい」
「ちょっと突っ掛かってきた。でも、意外とあっさり逃げたわ」
「ラオファは契約以外の仕事はしない。つまるところ、せがれを殺せと厳命されていただけなんだろう。で、殺れるかね、お嬢さん」
「殺しの依頼なんて受けないわよ。だってわたしは一介の探偵なんだから」
「若頭に据えたのは間違いだったのかもしれんな」
「器じゃなかったのよ。ともあれ、わたしは役割をこなした。約束は守ってもらえるのよね? ごねるようだったらゆるさないけれど」
「ああ。もうガキにはクスリは売らん。報酬もくれてやろう」
「筋を通してくれるヤクザで助かったわ」
「ラオファに顔を見られたんだろう? 気を付けたほうがいい」
「彼女は契約でしか動かないんじゃなかったの?」
「例外もあるかもしれないってことだ」
事務所をあとにし、大通りに出た。
今回の案件は有意義だった。青少年に麻薬をさばく組織の一つと、話をつけることができたのだから。
殺されたソウロンは、多少、あわれだと思う。でも、と考えを翻す。だって、自分の身一つも守れない男になんの価値が? 昨夜の彼は判断と行動を誤った。結果、自らの死に繋がった。自業自得としか言いようがない。要は世の中をナメきっている甘ったれの臆病者が一人死んだというだけだ。
とにもかくにも、ようやく仕事を終えた。解放感は存分にある。
まだ午前中。ルーチンワーク。あちこちの商店に顔を出して回る。
とある胡同で折れ、馴染みの『魚屋』を覗くと、主人に「おや。少しばかりご無沙汰だったね、メイヤちゃん」と迎えられた。
「ちょっとしたことで一週間ほど席を外していたんです」
「毎日のように来てくれるもんだから、何かあったんじゃないかって心配していたよ」
「お変わりありませんでしたか?」
「まあ、たった一週間だ。いつも通り商売に精を出していたよ」
「今日のオススメを教えてください」
「いい鮭が手に入った。ご覧の通り、売り切れ間近だ。買っていくかい?」
「じゃあ、二切れいただけますか?」
「あいよっ」
その後も、あちこちを歩いて回ったのだけれど、依頼を受けるようなことはなかった。まあ、探偵なんてそんなものだ。そうそう仕事なんて落ちていない。
事務所に戻って扉を開けると、朝刊やら夕刊やらが散らばっていた。購入した鮭を冷蔵庫に入れてから、新聞をまとめてデスクに置いた。革張りの回転椅子に座り、七日前のものから順繰りに目を通す。
静かな部屋。
壁掛け時計の秒針の音だけが無機質に鳴る。
客がまるで訪れない中にあって、わたしは新聞を熟読し続けた。




