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ようやくだ。ようやく、ヴァージンとおさらばできた。色んな格好で楽しんだ。彼が覆いかぶさってくると、両腕を強く巻き付けた。自分でもビックリするくらい大きな喘ぎ声が出たのだった。
目が覚めると、もう朝になっていた。カーテンのない曇りガラスの窓から柔らかな日が差し込んでいる。正直言って、とても下半身が痛い。鈍痛に苛まれる。だけど、そこには確かな幸福感があって。
今更なのだけれど、場末のラブホテルなんかではなく、ちょっと値の張るところを選んだほうが良かったかなあと考えた。でもまあ、そんなことはどうだっていいかとすぐに思い直した。彼に抱いてもらったという事実さえあれば、それでいい。
マオさんがシャワーから出てきた。真っ裸なので「きゃー」と顔を覆った。でも、指の隙間はあいている。彼の生身の全身を拝むのは初めてだけれど、なんだか痩せてしまったように映る。彼は以前、「私は燃費がいいから」などと言っていた。だけど、何せ大きな体だ。ちゃんと食べなければ、体だって壊すだろう。
ベッドからおり、わたしはマオさんの濡れた体に抱き付いた。裸同士で抱き合うのことには、なんとも言えない心地良さがある。
「メイヤ君、君は何かスポーツを始めたのかい?」
「あっ、わかります? ムエタイをやっているんです」
「ムエタイかあ。背筋が、よりしなやかになったように感じる」
「でも、腕は太くなっちゃいましたし、腹筋もついちゃいましたし。抱き心地、やっぱり良くないですか?」
「そんなことはないよ」
「なら、嬉しいです」
「うん。それよりね、メイヤ君」
「なんですか?」
「見てご覧なさい」
マオさんはそう言うと、少し体を斜めにして、首筋を見せてきた。そこにはいくつも噛まれたような痕があった。
「あははっ。もうはなさないぞっていう気持ちの表れです」
「でも、噛むのはやめなさい。痛いから」
「その言い付けは守れません」
「相変わらず、わがままだね。それで、殴られたあとは? 痛まないかい?」
「痛いですけど、そのうち治りますから」
「逞しいね」
「そうなんですよ? それでは、わたしもシャワーを浴びてきますね」
「そうしなさい」
「あっ。その間にいなくなるとかナシですからね?」
「そんなことはしない。ちょっと疲れているし」
「セックスが激しかったからですか?」
「そうなのかもしれないね」
頭からバスタオルをかぶったまま、シャワールームから出た。シャツを着て、ズボンをはいているマオさんがベッドの端に座り右手を顎にやっていた。何か思いを巡らせているようだ。
「何を悩んでいるんですか?」
「いや。二年かけても、”狼”を捕まえられない私は無能だと思ってね」
「マオさんが捕まえられないのなら、誰にも捕まえることなんてできないと思います」
「君のひいき目は確かだろう」
わたしもベッドの端に座り、全裸のまま、横からマオさんに抱き付いた。
「やめなさい。服が濡れてしまうから」
「またそうやって気のきかないことを言うー」
「早く服を着なさい。風邪をひいてしまうから」
「またそうやって当たり前のことを言うー」
わたしは正面から彼の膝に乗り上げ、彼の首に両腕を回した。
「ねぇ、マオさん……? もう一回、してくださいませんか……?」
「そうするのは、やぶさかじゃない」
「だったら」
「まずは目を閉じなさい」
「はい……」
少しかさついた唇が、わたしの唇を奪った。すぐさま舌を絡ませた。幸福感に目が眩む。その情熱的なキスは問答無用で私の体を火照らせた。まるで炎のようなキスだった。




