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翌朝。デスク上の黒電話が鳴った。ミン刑事からの連絡だった。
「例の模倣犯は何か吐きましたか?」
「今のところ、何も吐いてねーよ」
「彼がどこで”狼”と接触したのか、そのへんを聞き出せるだけでも有意義だと思うんですけれどね」
「何かを口にするまで、詰問を浴びせるつもりだ。一時すら寝させてやったりしねーよ」
「それは何よりの拷問です」
「ゆるせねーんだよ、とにかく。なんの罪もない娘っ子を二人も殺ったわけだからな」
「DNA鑑定は?」
「済んだ。やっぱり模造品ってことで間違いねーよ。ついでに言っておくと、髪は白く染めていたようだ。それだけ”狼”に近付きたかったってことなんだろうな。何か漏らすようならすぐに電話をくれてやる。で、今日はこれからどうするんだ?」
「ルーチンワークですよ。外回りに出掛けて、営業活動をしようと思います」
「おまえのそんな切り替えの早さが、俺は好きだな」
「”狼”のコピーキャットはこれからも現れるかもしれませんね」
「それがやっこさんのカリスマ性ってヤツなんだろ」
「何か吉報が得られることを期待しています」
「ああ。わかったことがあれば、また連絡を入れる」
「そうしてください」
やはり”狼”を模したニンゲンだったのかと納得する。ミン刑事の言う通り、拷問の果てに何かを述べるようなことがあれば幸いだ。
二日後、またミン刑事から電話があった。
「やっぱり何も言わねーよ。それだけ意志が固いってことなのかね」
「”狼”に心酔しきっているってことなんでしょうね。だからこそ、なんの情報も明かさない。まだ取り調べを続けられるんですか?」
「いや。もう送検する。極刑に処せられることを祈るばかりだ」
「祈らずともそうなるでしょう。マオさんが言っていました。この国の司法は簡単に死刑を言い渡すんだって」
「国が弁護士をあてがうようだが、まあぶっちゃけ意味をなさないだろうな」
「人殺しはすべからく殺すべきです」
「過激な発言だな」
「だけど、そうじゃありませんか? 邪な感情を持ってヒトを殺めたニンゲンが、のちの人生をのうのうと送るのは、おかしいと思いますから。報いは報いとして、死をもって償うべきです」
「実は俺もそう思う」
「意見が一致しているようで安心しました」
「ある程度、おまえの思考はトレースできるんだよ。そして、おまえの考え方が正しいとも考えている」
「尚のこと、安心しました」
「また何かの折には依頼をする。その時は力になってほしい」
「勿論ですよ。わたしにとって、警察はお得意様ですから」




