表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
115/155

30.『不本意・不愉快・不謹慎』 30-1

 午前中の外回りのさいちゅう、東西に長い公園を横切ろうとしたところで、うしろから男に声を掛けられた。無精ひげに赤と黒とで構成された格子柄のネルシャツ、ジーパン。中年の太った男だ。なんだかみすぼらしくもある。一眼レフを首からさげている。それだけは値が張りそうだ。


「貴方、さっきからつけてきていたでしょう?」

「おねえさん、鋭いっ」

「何か用事?」

「いやあ、写真を一枚、撮らせてもらいたくって」

「写真?」

「モデルを探しているんですよ」

「なんのモデル?」

「当方、ファッション雑誌を担当していまして。いわゆる読者モデルというヤツです。おねえさん、べらぼうに美人ですから」

「褒めたって何も出ないわ。他を当たりなさい。頬の傷が見えないの?」

「いやあ、それもいいアクセントですよ」


 ある意味トレードマークではあるものの、出会ったばかりの男に「いいアクセントですよ」だなんて言われてしまうことはちょっと不本意だ。他意なく言っているのだろうとは思うけれど。


「まずは名刺をもらえる?」

「無論です。差し上げますよ」


 名刺を受け取った。『ズールイ出版社 モデル誌担当 ヨンフー』とあり、電話番号が二つ記されている。いっぽうは社の代表電番で、もういっぽうは部署直通のものだろう。探偵がモデルをやるのはどうかと思う。だけど、一枚くらいならいっかと、わたしの中で楽観論が働いた。


「ねぇ、一枚だけでいいんです。撮らせてやってくださいよぉ」

「いいわ。一枚だけね」

「やっりぃ」


 あえて頬の傷を隠そうとは思わない。だからわたしは腰に手を当て、真っ向からカメラに向かった。


「綺麗に撮ってよね」

「それはもう、それはもう」


 男は一度、シャッターを切ると、「いやあ、いいものが撮れました」と言って、にやっと笑ったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ