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夜が近い時間帯になって、コウエン氏が事務所を訪れた。仕事帰りに寄ったらしい。
「お時間を割いていただいているわけですから」
と言いつつ、コウエン氏は茶封筒をテーブルに置いた。わたしは腕を組み「ふーむ」と唸った。
「どうかされましたか?」
「いえ。報酬をいただくほどのことはしていないなと思いまして」
「でも、受け取ってください。なんだかご迷惑をかけてしまっているようですし」
「迷惑だなんて考えていませんけれど、わかりました。頂戴します」
「そうしてやってください。それで、女房は何か言っていましたか……?」
「早速、申し上げますね。奥様は不倫されているようです」
「えっ」
「まあ、驚かれるのも無理はありません」
「本当なんですか?」
「ええ。お相手は隣に住まう男性だそうです」
「そうでしたか……」
「何か、その素振りみたいなものはなかったんですか?」
「まったく気付きませんでした」
「貴方がくだんのポールダンサーにうつつを抜かしていたからかもしれませんね」
「否定はできません。あの、やっぱりもう、引き返せる段階は過ぎていますよね?」
「わたしはそう思います。結婚したことがない小娘に何がわかるんだ。奥様にはそんなふうに言われてしまいましたけれど」
「女房がそんなことを? それはすみません」
「いいんですよ。事実ですから」
「決断しました」
「離婚されるんですね?」
「はい。お互いのためには、それが一番いいでしょうから」
「昨日は平手を見舞ってしまい、申し訳ありませんでした」
「いえ。なんにせよ、私に落ち度があったと考えています。私がまっとうな夫でありさえすれば、こんな事態にはならなかったはずですし」
「そうかもしれません。ところで、ぶってしまった罪滅ぼしと言ってはなんですけれど、そのポールダンサーさんが勤務されているところにご一緒しましょうか?」
「えっ。それは、またどうして」
「わたしがいれば、なんらかの形で後押しをできるんじゃないかな、って」
「そうかもしれませんね。何から何まですみません」
「離婚の協議に決着がついたら、またお越しになってください」
「わかりました。その際はまた、よろしくお願いいたします」




