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28.『ホームレス』 28-1

 わたしは酒や弁当が幾つも入っているビニール袋を提げて、けして明るくはない路地を訪れた。そこではたくさんのホームレスがダンボールハウスで暮らしている。


 わたしが「こんにちわぁ」と柔らかく声を掛けると、建物の壁に背を預けてうずくまっていた初老とおぼしき男性が、「やあ、メイヤちゃん、こんにちは」と返してきた。


「お弁当を持ってきました。あとお酒も」

「いつもすまないね。早速、みんなに声を掛けてくるよ」


 呼び掛けられたホームレスの男性らが、ダンボールハウスから、次々に出てきた。わたしは道にお酒とお弁当を広げる。


「ありがとうねぇ」

「ホント、助かるよ」


 などと喜んでもらえた。


 わたしはしばしば、彼らのもとを訪れる。以前は毎日食料を持ってきていたのだけれど、「毎日は悪いよ」と断られた。だから日を空けて訪ねるようになったのだ。施しだなんて偉そうなことを言うつもりはない。人助けだとも思っていない。ただ、ほうってはおけないというだけだ。


 ホームレスの男性の一人は、涙を浮かべながら弁当を食べ始めた。このヒト達は家はなくとも、ニンゲンとしての尊厳までは失っていない。わたしはそんなふうに考えている。


「お酒はありがたいなあ。ちょっとした楽しみなんだ」


 と、ある男性が言った。


「たくさん買ってきましたけど、あまり飲み過ぎたりしないでくださいね?」

「メイヤちゃんはありがたい存在だよ。だけど、どうしてここまでしてくれるんだい?」

「その昔、下手をすれば、わたしも路頭に迷っていたかもしれないからです。だから、おじさま達のことが他人のように思えないんです」

「どうして路頭に迷うところだったんだい?」

「唯一の身寄りだった母がいなくなってしまったからです」

「どうしていなくなってしまったんだい?」

「えっと、それは、ですね」

「いや。言いにくいんだったら、無理に答える必要はないよ。なんだか、つらいことを思い出させちゃったみたいだな」

「いいんですよ。今のわたしは、それなりに恵まれていますから」

「仕事はしたいんだけどなあ。でも、家がないと難しいんだよなあ」

「お察しします」

「いやいや。メイヤちゃんが気にするようなことじゃないよ」


 ささやかな酒宴が始まった。みなは揃ってニホン酒のコップを持ち、陽気になる。わたしも参加した。酒をすすりながら、他愛もない話を聞いて笑った。


「それじゃあ、おいとましますね」


 そう言って、わたしは腰を上げた。また来ようと思う。


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