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26-3

 翌朝。


 ペンギンマークの宅配業者は、この街以外にも名が知れ渡っている大手の運送会社だ。老舗中の老舗である。


 わたしは『カイホー』にある彼らの仕事場を訪れた。小型のトラックが何台も止められていて、積み荷を載せ次第、いずれも配達に向かう。


 事務所に詰めている支部長に通してもらった。頭は禿げ上がっており小太り。配達員と同様に緑色のつなぎをまとっている。


 応接セットへと促され、ソファについたところで、早速、身分といきさつとを話した。


「そうですか。ウチの従業員をかたったニンゲンがしでかしたんですか……」

「例えばの話ですけれど、作業着を奪われたかたはいたんですか?」

「ええ、おりました。公衆トイレで両手両腕を縛られ、猿ぐつわをされた状態で、個室に押し込められていたそうです。市民のかたが偶然見付けてくださいました。用を足そうとしたところを襲われたんでしょうね。無論、即刻通報しました」

「そのかたは犯人の顔を確認したのでしょうか」

「いえ。いきなり後部を鈍器のような物で殴られ、気絶してしまったようなので……」

「なるほど」

「なんとかしてご協力したいのですが、申し訳ありません」

「いえ。止むを得ないことは止むを得ないこととして、割り切るより他ありません」

「被害者のかたが一命をとりとめたのであれば何よりです。しかし……」

「ええ。捨て置けないことです。夫が刑事であるとは言え、奥様はなんの罪もない、一般人であるわけですから」



 支部長と別れたのち、公衆電話からミン刑事に連絡を入れた。


「やっぱり間違いありません。ペンギンマークの配達員を装った人物の犯行であるようです」

「そうか……」

「ええ」

「とはいえ、それがわかったところで、どう対処したもんか……」

「提案があります」

「なんだ?」

「奥様におとりになっていただきましょう」

「おとり? おいおい、メイヤ、おまえ、何を言っているんだ?」

「話は最後まで聞いてください。マスコミにリークするんですよ。ニュースとして報じてもらうんです。ミン刑事の妻、重傷、だけど命に別状はなし、最寄りの病院で療養中、といった具合に。そしたら犯人は網にかかるかもしれない」

「犯人はそれだけシュエリーのことを殺したがっているってことか?」

「わたしはそうだと思います」

「おまえの目論見は理解した。だが、見舞客全員を問い質すのか?」

「ターゲットが男性だということはわかっているじゃありませんか」

「つってもだな、ウチの女房は交友関係が広いんだ。男友達だって、少なからずいるはずだぜ?」

「この際、男性については、全員、疑っちゃいましょう」

「しかし、それをやるとなると、病院側の協力も必要になるはずだ」

「その交渉はミン刑事にお任せします」

「それは構わんが」

「背に腹は変えられない。違いますか?」

「違わねーさ。やっこさんを誰より捕まえたがっているのは俺自身だからな」

「大丈夫。上手くいきますよ」

「俺は女房の病室で待機していればいいんだな?」

「まさか。そんな危険をおかす必要はありません。病院に言って、一つ空き部屋をこしらえてもらえばいいんです。職員のかたには、そこが奥様の病室だと、見舞客を装って訪れるであろう犯人に伝えていただく」

「だが、実はその部屋では俺が待ち構えている」

「はい。そういう段取りです」

「ウチの若いを少々動員したほうがいいな」

「わたしとミン刑事だけでやれますよ」

「そうか?」

「問題ありません」

「わかった。了解したよ」

「犯人が短気だといいですね。裏を返せば、慎重な男だと厄介です」

「おまえの勘を信じるさ」

「ありがとうございます」

「いや。礼を言うのはこっちのほうだよ。頭を悩ませちまったようで、悪かったな」

「悩んではいません。ぱっと思い付いた計画ですから」


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