26:まるで恋人のような?
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「ごめん、悠理ちゃん。今日のお昼は黒瀬くんと食べさせてもらえないかな。天気もいいし、屋上で一緒に食べようって誘われたの」
昼休憩。
いつものようにお弁当箱を抱えて由香ちゃんの席へ向かうと、申し訳なさそうにそう言われた。
「……うん。わかった」
律儀に手を合わせて頭を下げられれば拒否できるはずもなく、私は内心の動揺を隠して頷いた。
「ありがとう」
控えめな微笑みを浮かべて、由香ちゃんは青い小花模様の巾着袋と水筒を手に教室を出て行った。
廊下で待っていた拓馬と合流し、会話しながら歩き去る。
二人を見送って、私は自分の席へと引き返し、着席してお弁当の蓋を開けた。
春巻きに甘い卵焼き、から揚げ、ポテトサラダ、茄子とさやいんげんの煮物、ブロッコリーにミニトマト。
拓馬のお弁当も内容は同じだ。彼のお弁当は私が作っている。
そのお弁当を広げて、拓馬は由香ちゃんと過ごすのか。
窓の外は突き抜けるような青空。
こんな晴れた日に外で食べるのはさぞ気持ち良いだろう。
「…………」
私は窓から机へと視線を戻し、黙々とおかずを口に運んだ。
昨日の夜に作った茄子の煮物はよく味が染みている。
他のおかずも問題なく美味しい。
そのはずなのに、ちっとも味がしない。砂でも噛んでるみたいだ。
由香ちゃんと拓馬は屋上でどんな会話をしてるんだろう。
まさかあの二人がこんな短時間で急速に仲良くなるなんて思いもしなかった。
大福は気にする必要ない、なんて言ってたけど、気になるに決まってる。
元はと言えば私が拓馬に彼氏役を頼んだからこんなことになったんだから。
拓馬はイケメンで、相手によって対応を変える柔軟性を持ち、女子の扱いが上手で、気が利く。
異性に免疫のない由香ちゃんが惚れても当然だと思える。
由香ちゃんだって淑やかで、可愛くて、これまで多くの女子を見てきたであろう拓馬が夢中になってもおかしくない。
「………………」
二人のことを考えれば考えるほど冷や汗が出てくる。
私、やっぱり選択肢間違えたよね?
絶対間違えたよね!?
「ねえ、なんであいつ一人で食べてんの? さっき黒瀬くん、中村さんと一緒に出て行ったよね? どういうこと?」
「フラれたんじゃないの。いい気味」
斜め後方から、聞こえよがしの声。吉住さんのグループだ。
「中村さんのほうがまだお似合いだと思うし」
「言えてる」
……それは私もそう思う。
引っ込み思案だから目立たないけれど、由香ちゃんは隠れ美少女だ。
拓馬と並べば絵になる。
所詮はモブで、並みの容姿でしかない私よりも遥かに。
「~~~~~っ」
もう無理。
私は半分以上が残る弁当箱に蓋をして片付け、立ち上がった。
ちょっと様子を見るだけ。ちょっとだけ。
言い訳のように繰り返しながら、屋上に続く扉をそっと開ける。
たちまち七月の眩い日差しが目に飛び込んできて、私は反射的に目を眇めた。
目が明るさに慣れるまで少々待ってから、見渡す。
給水塔と広場で構成された屋上。
私は屋上に集う十数人の中から拓馬と由香ちゃんの姿を探した。
目がある一点で止まる。
入り口から遠い場所で、二人は手すりを背に座っていた。
距離があるから内容までは聞こえないけれど、拓馬は身振り手振りを加えて喋り、由香ちゃんはニコニコしている。
二人の周囲の空気がピンクに染まっているように見えて、倒れそうになった。
扉の縁を掴んでどうにか体勢を整え、深呼吸。
しっかりしろ私。ただ話してるだけじゃないか。
そう、ほんのちょっとだけ楽しそうで、恋人みたいな雰囲気が漂っているだけで……ダメだ、これ以上見ていたら心が抉られる!
私は扉を閉め、踵を返した。
覚束ない足取りで階段を下り、廊下を歩き、教室に戻る。
椅子を引いて着席した途端、どっと疲れが溢れ、べちゃりと机に突っ伏す。
目から液体が出ているような気がするけれど気のせいだ。
泣いてない。泣いてないし。




