14:お題はイケメン
二人三脚が終わり、ついに借り物競争が始まった。
号砲が鳴り、生徒たちが一斉に飛び出し、二十メートルほど先に散らばるお題が書かれた白い紙に飛びつく。
借りやすい物――あるいは者――のお題を引いた生徒は喜び、反対に借りにくい物を引いてしまった生徒は渋面になりながら、グラウンドや校舎の方向に散って目的のものを探す。
ハンカチ、ティッシュ、赤い鉢巻きを巻いた男子生徒、青い鉢巻きを巻いた女子生徒、校長先生の靴下、足立先生の腕時計、チョーク、黒板消し、バスケットボール。
お題は様々である。
足立先生の腕時計はいいけど、校長先生の靴下って嫌だなぁ……誰だこんなお題にしたの。
いよいよ出番となり、私はスタートラインに立った。
同じスタートラインに立つ生徒は七人。
私の隣の男子生徒は軽く屈伸している。
いかにもやる気満々って感じだ。
引き締まった身体つきだし、私より遥かに足が速そう。
でも、借り物競争は運動能力というより運の勝負。
借りやすい物が引けますようにと、私はコースの先にある紙を見つめて祈った。
前回の出場選手のほとんどがゴールしたところで、スターターピストルが掲げられた。
私は身構えた。
スターターピストルの音は苦手だ。
あの音、どうにかならないものかなあ。心臓に悪いんだけど。
「位置について。用意……」
号砲が炸裂する。
その音量に身を震わせつつ、私は他の出場選手と同時に走り出した。
「走れー!」
一組の応援席のほうから、生徒たちの声援に混じって拓馬の声がした。
その声が私に活力をくれた。
他の出場選手に追いつけなくても気にしない。
易々と追い抜かれてもめげない、挫けない。
とにかく腕を振り、グラウンドを蹴って、全力で走る!
紙が散らばるゾーンに最も遅く着き、その中の一枚を拾い上げる。
お題は伏せられているし、見た目は全部同じなのでどれがいいのかなんて考えても仕方ない。
勘に任せて拾った紙を裏返しにし、お題を確認。
お題は至極単純で、小学生でも理解できる簡単なカタカナ四文字だった。
『イケメン』
本当に誰だ、このお題を考えた人は……。
膝をつきそうになるのを堪えて、私はグラウンドを見回した。
イケメンといえば『カラフルラバーズ』の攻略対象キャラ全員が当てはまる。
ここから一番近いのは二年三組、白石先輩のクラスだ。
応援席の最前列に白石先輩が座っていた。
髪と頭に巻いた白い鉢巻きを風に靡かせ、優雅な微笑みを浮かべて友達と喋っている。
駆け寄って、一緒に来てください、と頼めば白石先輩は快く了承してくれるはず。
白石先輩と同じクラスの赤嶺先輩に頼むという手もある。
精悍な顔立ちの赤嶺先輩は無表情でこちらを見ていた。
誰に頼もうか。
もしもこれがゲームなら、目の前に誰を選ぶかという選択肢が出現することだろう。
打算で考えるなら白石先輩がベストか。
お茶会の主催者である白石先輩と仲良くなれれば、私もお茶会に参加できるかもしれないから。
――でも。
選択肢なんて要らない。
イケメンというお題を見た瞬間、頭の中に浮かんだのは一人だけ。
私は二年三組の応援席に背を向け、全速力で走った。
もう迷いなんてない。
この機会を逃すことでお茶会に参加できなくなったって構わない、私が手を繋いで一緒に走りたいのは彼だけだ。
ヒロインのように五人のイケメンからちやほやされなくたっていい、たった一人と仲良くなれればそれでいい。
「拓馬!!」
私は一年一組の応援席の前に立ち、その名前を叫んだ。
応援席のベンチの一番上で、拓馬が私を見下ろし、吉住さんたちが口をあんぐり開けている。
よりにもよって彼女たちの前で呼び捨てにするなんて、喧嘩を売ったも同然だ。
でも、そんなのもどうだっていい。
「一緒に来て!!」
私はぜえはあと息を切らしながら、拓馬だけを視界に捉え、右手を差し伸べた。
拓馬は――なんだか楽しそうに笑った。
応援席のベンチから身軽に飛び降り、歩み寄って来る。
「何。お題に該当したのがおれなの?」
「そう。イケメンって言ったらあなたでしょ!」
片手に握り締めていた紙を大きく広げてみせる。
拓馬はイケメンの四文字を見た後、
「違いない」
納得したように言って素早くグラウンドを見回し、他の出場選手の動向を確認した。




