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何ができるのかを

「……な、なぁ、ハルト。

 俺にはお前の言ってることや、やったことがよく分からないんだが、前にも盗賊を捕まえたって話は本当なのか?

 いや、ヴィレンさんが話したんだから嘘だとは思ってないが、それでも登録したばかりの冒険者だと思ってたんだが……」


 アートスの疑問はもっともだ。

 彼らには盗賊の件を伝えてないし、正直なところ話すつもりもなかった。

 知れば対応を180度変えられるかもと感じたこともあるが、何よりも彼らの今後を考えればそれが最善だとは思えなかったからだ。


 カウノがアートスに続き、ヨーナスも考察しながら答えた。

 その問いに答えたのは俺ではなく、ヴィレンさんが先だった。


「そ、そうだぜ!?

 お前、俺らと同じランクFの新人じゃないのか!?」

「……先輩が捕まえたところに居合わせたんだよな?

 それなら分からなくはないと俺は思うんだが……」

「ハルトは冒険者登録したばかりの新人なのは間違いない。

 だが、お前たちとは比べられないほどの力量差がある。

 それは盗賊をふたりも捕縛した瞬間に立ち会ってるんだから、内心では理解してるだろ?」

「……けどよ……」


 言葉に詰まるカウノ。

 その気持ちもわかるが、過ごした時間の密度が人とは違うからな、俺は。

 過ごした日々も、何のために力を追い求めて手を伸ばしたのかも。


 静かに暮らしてきた村人じゃ体験できないかもしれない時間を、俺は10年以上過ごしてきたんだよ。

 武術と真剣に向き合い、研鑽を積み続けた俺とみんなが違って当たり前なんだ。


 それを肌で感じるように理解しているんだろう。

 彼も同じように研鑽を積み続け、力を手にしたからこそ今も憲兵でいられる。

 そんな鋭い気配を纏っているからな、ヴィレンさんは。


「こんな言い方は良くないと思うが、ハルトとお前たちでは積み重ねてきたものが明らかに違うんだよ。

 確かにハルトは登録したばかりの新人冒険者なのは間違いない。

 だが、お前らも見ただろ?

 恐怖に震えるように体が硬直して動けなかったお前たちとは違い、ハルトは冷静に対処した上に、人質にされそうになった女性をも咄嗟の判断で行動して救った。

 それには並外れた鍛錬による武術と、冷静さを保ち続けながら正しく行動するための判断力と決断力が必要になる。

 体術を含む肉体的な技術力の高さだけじゃなく、精神的にも鍛えていなければあれほど明確な判断と行動はできないんだよ。

 ……正直なところ、俺でもあんな凄まじい動きなんて無理だ。

 単純な強さで言えば、研鑽を積み続けているハルトのほうが遥かに上だよ」


 彼の言葉に唖然とするしかできない3人だが、それは一条にも言えた。

 "勇者"としての特性なのか、肉体的にも強化された状態で戦うあいつのほうが遥かに危なっかしいと思うが、アイナさんとレイラのふたりが付いてくれているなら大丈夫だ。

 正しい知識と戦い方を学べるし、それこそ実戦形式での応用も学べるだろう。


 特にあいつが本物の勇者で、諸悪の根源たる魔王を倒すに足りる実力が潜在的に備わっていたとしても、最終戦のためにしっかりと鍛え上げなければならないはずだからな。


 ……本当にそんな存在がいれば、ではあるんだが。


 そもそも魔王がいると話を聞いたのは、追放された王国の中枢のみだ。

 実際には存在しない場合や、迫害に近い扱いを受けた人である可能性も考慮するべきだし、あの連中の話はとてもじゃないが信用なんてできない。


 しかし、城内で厚遇を受けたと本人からも聞いている以上、本当にそういった存在がいる可能性も低くはないが、豚王どもの都合のいいように使い潰されかねない性格をしているから、アイナさんとレイラがいてくれるだけでも本当に助かった。

 あいつひとりじゃどんなことになるのか、想像するのも恐ろしいからな。


 だが問題はアートスたちのほうだ。

 勇者が持つ潜在能力をこの世界の人々が持つのなら、魔王など滅んでいるはず。

 異世界人でなければ斃せない場合や、少年漫画のように後天的な能力の開放現象が彼らに起こると仮定しても、結局は"武術"が必要になるのは間違いない。

 力押しで勝てるような相手なら、潜在能力で戦う勇者と変わらない末路を辿る。


 ヴィレンさんは、武術を学ばないことの危険性を彼らに伝えてくれた。

 憲兵を続けている彼の話だからこそ気付かせることもあるし、年齢と地位を合わせればアートスたちにも嫌味と感じさせることなく助言として伝えられるだろう。


 これは、同世代の俺ではできない。

 そう思って話をしてくれたのかもしれないな。


 そんな彼も、研鑽を積み続けた人のひとりなのは間違いない。

 並の覚悟で続けられるほど、憲兵は甘くないはずだからだ。

 どんな寂れた村だろうと魔物や盗賊が襲撃する不安は拭い去れないし、むしろ長閑な場所ほど護る者も少ないだろうから、より危険度が増すようにも思える。


 精神的にも、肉体的にも。

 理想や信念だけでは続けられない大変な職業なのは確実なんだ。


 それでも、俺には彼らに武術を教えてあげられる時間はない。

 せめてある程度の下地ができていればまた話は変わるが、剣を振るったこともないような彼らを町の外に連れ出せるほどの鍛錬ともなれば、軽く3か月はかかる。

 俺にもやるべきことがあるし、サウルさんたちを待たせるのも忍びない。


 "西の果て"に何があるのか、近くに行かなければ分からないだろう。

 恐らくは国内で正確な情報を持つ人物もかなり限られるはずだ。

 そんな場所に彼らを連れて行くにはあまりにも危険すぎる。


 連れて行くこともできなければ、軽々しく武術を教えるとも言えないこの状況で、俺に何ができるのかを考える必要がある。


 ひとつだけ彼らのために提案できることはあるが、これについてはアウリスさんたちにも聞かなかったから本当にあるかも分からない、曖昧な手段とも言えるかもしれない。

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