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普通来ねぇだろ

 もう何度目か数えるほど多く来ている東門憲兵詰め所に、俺はアートスたちと先ほどの件について質問をされていた。


 とはいえ、経緯を聞かれた程度で質問らしい質問ではなかったが。

 悪目立ちしないように、あの場所から離れさせてくれたのが本当のところなのかもしれないな。


「……済まないな。

 捕縛に協力してもらっただけでなく、夕食を遅らせることになって。

 依頼を終えたあとのことだったなら相当腹も減ってるだろう?」

「い、いえ!

 俺たちは全然大丈夫ですから!

 だよな、ハルト!?」


 背筋をまっすぐに伸ばしながら、余裕のない表情で答えるアートス。

 ヨーナスとカウノのふたりも、がちがちに固まっていた。


「もう少し落ち着いたらどうだ?

 あとで疲労感が一気に噴き出すぞ」

「ハルトは慣れてるみたいだな」

「憲兵詰め所は何度か来てるからか、緊張はしないよ」

「ハルト、何やらかしたんだよ……」

「そ、そうだぞ。

 憲兵詰め所なんて、普通来ねぇだろ?」


 まぁ、憲兵詰め所なんて、普通に生活してたら来ることなんてまずないか。

 日本の交番とは違って、気軽に来るような場所でもないみたいだな。


「人に恥じるような生き方はしていないつもりだよ。

 それに、やましいことがないんだから緊張することもないだろ?」

「大物の器だな!」


 豪快な笑い声が憲兵詰め所に響き渡った。

 気難しい人なら気を張るが、彼は強面に見えても気さくな人のようで安心した。

 そういった意味では、俺も緊張してたのかもしれないな。



 憲兵隊の中隊長を務めるヴィレンさんは、今回の一件についての報告を聞いて盗賊捕縛の指揮を急遽執った人だと聞いた。

 本来あっては困る事態で、最悪の場合は大事件に発展しかねない憲兵隊の失態ではあるが、どうやら身体検査が不十分な状態で牢屋に入れたことが今回の一件の顛末にも繋がるんだが、気になることが頭から離れなかった。


「……それにしても、ヘアピンひとつで牢屋を抜け出すなんて、実際にできるやつがいたことのほうが俺には驚きだよ」


 話には聞いたことがあっても、俺の知識ではあくまでも創作物の中での話だ。

 それを現実にやってのけるとは、さすがに想定すらしていなかった。


「言い訳に聞こえるかもしれないが、憲兵詰め所の牢屋ってのは鍵が複雑でな。

 そんじょそこらの技術じゃ開けられないようになってるはずだったんだよ」

「……ということは、かなり特殊なやつを捕縛してたってことになるのか」

「そのようだ。

 今後はそっち方面でも詰問される手筈になっている。

 ついでに逃亡罪と殺人未遂罪で追起訴することになるな」


 まぁ、当然と言えば当然か。

 分かった上で逃げ出したんだろうし、連中は町の誰かと会う予定だったからな。

 実際にその人物が町から逃亡することも難しそうだから、今は戦々恐々としてるかもしれない。


「俺としては、ハルトの強さに驚きを隠せない。

 町中をかなり追いかけていたとはいえ、あれだけ剥き出しの殺気にも怯むことなく冷静に対処し、必要最低限の武力で制圧した技術は凄まじいものがあった。

 遠目からでも新人離れした動きだったのを確認できたが、一応は冒険者登録をしたばかりなんだろう?」

「そうだな。

 登録はトルサになるが」

「結構近いな。

 ……いや、そうか。

 なるほど、お前があの(・・)ハルトか」


 まるで悪名のようなニュアンスに聞こえたが、旅をしてきた日数を考えればトルサでの一件は無関係だな。

 恐らくこの町に来る前の話や今回の一件にも繋がりがあると気付いたのか、ヴィレンさんは嬉しそうに話した。


「そうかそうか。

 それじゃ、今回もまた助けられたってことだな」

「今回も前回も、町中歩いてたら遭遇しただけだから偶然だよ。

 自分の意志で関わったのは最初の盗賊だけだし、勝手な行動は町の迷惑にもなりかねないから実際にどうなっていたのかは分からなかった」

「それでも、進展が見られない俺たちの力になってくれたことは間違いないぞ。

 あまり口外することでもないが、例の一件では随分と情報が得られている。

 あと少しで大規模な作戦を練り上げられるところまできてることもあって、感謝の意を表する予定になっていた」


 ……仰々しい言葉に聞こえた。

 町長から感謝状でももらう勢いだが、冒険者ギルドマスターとは面会することになるかもしれないな。


 だが、俺ひとりで達成した問題でもない。

 ふたりが捕縛に協力してくれなければ俺も動かなかっただろう。

 巻き込む形になるが、再会したらそれとなく謝っておくか。


「サウルさんとヴェルナさんの協力あってのことです。

 彼らと話し合って、俺が捕縛を決定しました」

「"だから何か問題があれば俺の責任"、か?

 仲間想いのいいやつだな、ハルトは!

 ぜひとも憲兵隊員に欲しいな!

 経験さえ積めば隊長格に推薦できるよ!」


 豪快に笑うヴィレンさんとは対照的に、アートスたちはそのやりとりを見ながら固まっていた。

 自分の想像もつかないことが連続して起こればそうなるのも当然かもしれないが、俺としては彼らに伝えるべきか悩んでることもある。


 あとはどうやって切り出すかになるんだが、実力をある程度見せた今なら話を自然と聞いてくれるだろうか。


 ……まぁ、目が点になってる彼らには、まだ話せることでもないが。

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