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なんとも皮肉なこと

 しみじみと考える俺に、彼は言葉を続けた。

 むしろ、そちらも大きな要因になっていたことを改めさせられた。


彼奴(きゃつ)はそれなりに離れたこの町でも厄介者扱いをされた魔物での。

 本来なら"ルースの森"最奥から深部にかけて巣を作り、そこを中心として出ることはないと言われているが、実際この町にまで来た事例も報告されておる。

 強固な街門を突破される心配はないが、それでも倒すのに苦労する相手じゃ。

 討伐してくれたハルト殿がハールスで"英雄扱い"されるには十分じゃろうて。

 おまけに"単独撃破"がそれに拍車をかける、と言えば分かってもらえるかの?」

「……な、なるほど……」


 やはりハールスの街門まで到達した事例があったんだな。

 だとすると、俺の読みもあながち間違っていないし、だからこそ"ティーケリを倒したこと"そのものにも大きな意味が含まれてくる。

 彼の言うように、この町の住民が騒ぎ出すのは時間の問題だ。


 考えが至らなかったが、よくよく考えてみればかなり危ういのかもしれない。

 もちろん身の危険を感じるようなものではないが、少なくとも精神的な疲労感が溜まり続ける状況の中、日々を過ごすことになるのは間違いなさそうだ。

 最悪の場合、この町から出立することすらも難しくなるんじゃないだろうか。


「恩には恩を、感謝には感謝を。

 他者を尊重し、敬いながら暮らす。

 ここハールスは、そんな町なのじゃよ」


 笑顔で言葉にする彼もまた、厄介者を退けた俺に感謝を込めて話した。

 "だからこそこの町には滞在してほしくないのだ"と、彼は俺に心中で切願する。


 この町を嫌いになってほしくないから。

 度が過ぎた感謝が俺の心を蝕みかねないから。


 それを彼らなりの優しさに思えた俺がその恩を返すのなら、こう言葉にするのが何よりも正しいと思えた。


「わかりました。

 "ギルド依頼"をお受けします」


 むしろ、そうすることで楽しみが増えた。

 この町は世界で唯一かもしれないほどの果実が集まる場所みたいだからな。

 飲み物や干した物を含めれば、それこそ1週間やそこらじゃ食べきれないほど多くの種類を楽しめるだろう。


「済まないの、ハルト殿。

 それが互いのためと思えるのはなんとも皮肉なことじゃが、三月(みつき)もすれば熱も冷めるとワシは推察しておる。

 きっと穏やかな(・・・・)ハールスを自然と楽しんでもらえるじゃろうて」

「その時はのんびりと町を歩かせていただきます」


 俺は素直にそう思った。

 ふたりが住むこの町をしっかりと見てみたい、とも。


 それが叶うのは最低でも3か月は先になるだろうし、その前にトルサで受けた依頼も終わってしまうかもしれない。


 けど、これだけ良く思ってくれた人たちが暮らす町を見ずに元の世界へ戻るのはもったいないとも、この時の俺には思えた。


「果物の町、か。

 今から楽しみですね」

「そういってもらえるだけで救われるの。

 じゃが、それに関しては期待してもらっていい。

 数百にも及ぶ世界中の果物が様々に形を変えて町に溢れておるからの。

 納得してもらえるだけのものを提供できることは約束できよう」

「ハルト様には、ぜひ"ハールス"を味わっていただきたいところですね。

 かなりの高額ではありますが、ティーケリを倒されるほどの実力を持つハルト様であれば手が届く値段だと思いますので」

「そうですね。

 俺も興味がありますから探させていただこうと思います。

 もしかしたら世界でいちばん美味しい果物かもしれないですからね」

「昔は子供でも買えるほどの安価で売られていたのじゃが、現在ではとんと見かけなくなったのが残念でならないの……。

 あの果実が放つかぐわしい香りと上品な甘さは他に類を見ない。

 唯一無二と言ってもいいほどの大好物なのじゃが、ぜひともハルト殿には味わってもらいたいと思えるほどの味なのじゃよ」


 ふたりから察せるその味は、高額だろうと食す価値があると思えた。

 町にその名がついた果物なんだから、きっと美味いに決まってる。


 それを今度の楽しみとして取っておくことも、旅の醍醐味なのかもしれないな。

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