生涯忘れない
光が収まるその時まで、俺たちはみんなと話をし続けた。
それは、とても他愛無い話で。
本当になんてことはない内容で。
でも、だからこそ話す意味があるような気がした。
こうしている時が、いちばん落ち着くんだろうな。
きっとみんなもそう感じてるから、同じようになんてこともない話で盛り上がれるんだ。
雑談に花を咲かせながら、俺はこれまで辿ってきた道を思い返す。
色々と問題事もあったけど、それでも楽しかったと本心から思った。
徐々に光の数が少なくなる。
反面、俺たちの口数は増えたような気がした。
恐らくは、いま昇って行った光たちが最後だったんだろう。
数十ほどの光が空へと向かうのを、俺たちは静かに見守った。
「……もう、時間みたいだな……」
そう言葉にしたヴァルトさんは、どこか晴れやかな表情に見えた。
俺たちとは別れることになったとしても、未来に繋がっているんだ。
なら、悲しいと感じる気持ちは、別れた後に噛み締めればいい。
「ありがとう、ヴァルトさん。
あなたがいなければ、俺はトルサに辿り着かなかったかもしれない。
もしもその道を進んでいたら、魔王討伐すら危うかったと俺は思ってる」
「……よせよ。
俺はただ、俺にできることを精一杯しただけだ」
「それでも、ありがとう」
俺の言葉をくすぐったそうに聞いた彼は、気合を入れ直して言葉にした。
「よし!
それじゃあな、ハルト、カナタ!
俺はこれからフェリクスに酒を奢らないといけないからな!」
「そうだったな」
「元気でな!
ヴァルトのおっさん!」
「おう!」
勇ましい笑顔を見せながら右手で挨拶をしたヴァルトさんは半透明になり、そのまま光の粒子となって空へと還った。
「そんじゃ、次は俺だな」
楽しそうに笑いながら、バルブロさんは言葉にした。
思えば彼は突発的に参加してくれた方で、情報もなにもない状態で、それでも俺たちに力を貸してくれた。
これがどれだけ凄いことなのか、とても言い表せられない。
自身の命すらもかけてくれた彼に、俺はどんな言葉を尽くしても蛇足に思えた。
「ありがとう、バルブロさん。
ただひたすらに、感謝の言葉しか出ないよ」
「なんだよそりゃ!」
彼は声高かに笑った。
でも、想いは伝わったようだ。
そういう勘の良さに救われたんだよな、俺たちは。
これはきっと、人生経験の差から来るものなんだろうな。
「付いてくるって聞いた時は、さすがに引いたけどさ。
でもあんがとな、バルブロのおっさん。
その生き様、男として尊敬するし、見習うぜ!」
「やめとけやめとけ!
命がいくつあっても足らねぇぞ!
お前らはまだまだ若いんだ!
自分の命賭けんのは今回だけにしとけよ!」
気持ちよく笑ったまま、彼は空に溶け込むように去った。
豪快で、それでいて思慮深い大人の男性だ。
素直にかっこいいと俺は思えた。
「そういやおっさん、向こうで何すんのかな?」
「あいつは冒険者に戻るんだよ」
一条の言葉に答えたのはアーロンさんだ。
そういえば彼も辞表を叩きつけたんだったな。
トルサは町の規模で言えば確かに小さいが、それでも積み重ねた月日だけでなれるほど憲兵隊長ってのは甘くないはずだ。
彼は、これからどうするんだろうか。
そんな心配事も見通されたようだ。
軽く笑いながら、興味深い話が聞けた。
「俺とバルブロとサウルでな、チームを組もうかって話をしてたんだ。
そこにヴェルナも加えた4人で世界中を歩く予定なんだよ」
「マジかよ……。
憲兵に戻らなくていいのか?」
「トルサに俺の居場所はもうない。
というよりもな、別の居場所を見つけちまったんだ。
"自由"に憧れが強かったところを束縛から解放されたこともあって、どうにも好きに生きたくなったんだよな」
「アタシはまだ答えを出してねぇけど、それも悪くねぇな、とは思ったよ」
「「なら決まりだな!」」
アーロンさんとサウルさんは、とても楽しそうに答えた。
素直に羨ましくも思える4人の関係に、どこか寂しさを感じた。
それでも俺は、俺の道を進むと決めている。
初めからそのつもりだったし、ここにきて気持ちが変わることもなかった。
……けど、みんなと歩む人生にも、強い憧れを抱く。
切なくも起こりえない未来を思い描きながら、それでも俺は、俺の信じた道を貫こうと決意した。
「それじゃあな、ハルト、カナタ。
俺たちのことは心配するなよ。
毎日楽しく過ごすからな!」
「あぁ、色々ありがとう。
良くしてもらえたことは、生涯忘れない」
「……ほんと、お前らしいな」
どこか困ったように笑いながら、アーロンさんは静かに旅立った。
これから先も、笑顔の絶えない日々が続いていくんだろう。
日本はもちろん、世界のどこにも存在しない冒険者という職業は、やはり憧れを抱くに十分すぎるほどの魅力を強く感じた。
……"自由"、か。
俺もできる限り日本で探してみよう。
そうすればきっと、幸せに過ごせるような気がした。




