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気になるだろ

 テーブルに広げた王都の見取り図に視線を向けた俺たちは、今度取るべき行動について話し合っていた。


 王城へそのまま向かうのは愚策だ。

 敵対者がどれだけいるかも分からない以上、正規のルートは選べない。

 少なくとも騎士団長が抜けたとなれば、魔王が直接王国騎士団を操る可能性も十分に考えられる。


 こうして地図上で見ると、王都ラウティオラは入り組んでいるのが良く分かる。

 これは王城へ侵攻させ難くするためのものだろうが、俺たちにとってはあまりありがたいものではなかった。


 平民、貴族、王族の区画がはっきりと分かれているが、帝国を連想する過度な選民主義の持ち主はさすがに少ないらしい。

 あくまでも王城勤務のために利便性を向上させる目的が大きいようだ。

 しかし、平民以外を相手にせざるを得ない状況にもなりかねないと、レフティさんは話した。


「中には諜報に長けた家系も多く、彼らの情報網に王国も頼ることがあります」

「王城に行くだけなら、なんとかなるんじゃねぇの?」

「……そうもいかないわ。

 わたくしたちの話はすでに王城へ伝えられ、策を講じているはず。

 それは魔王と無関係の騎士たちの可能性も考えられるのだから、一概に敵だと判断できないし、大のために小を犠牲にする手段はできるだけ取りたくないわね」

「となると、地下水道を通るのか?

 アタシは王都には詳しくねぇし、想像くらいしかできないんだけどよ、そう言った場所は迷路みたいに複雑な構造をしてるんじゃないのか?」


 なるべく人目を避けて王城まで行くにはいちばん安全な策だと思うが、実際下水道を使うとなれば内部構造に詳しくなければ、いずれは上に出て確認をする必要が出てくる。


 気配察知で構造物の詳細まで理解はできない。

 そんなことを可能とするのはコウモリくらいだろう。

 魔力を反響させることでソナーのように構造を把握できるのかと少し期待したが、それを現実にすることなど不可能だとも言われてるようだ。


 それも当然かと思いながら、別の手段を考える。

 王城までの経路に詳しい人物がいるとも思えない。

 となると、ある程度は限定されてくるな。


「別の道があるんですね?」

「えぇ。

 王都の地下水道は網の目状になっているため、ここを無策で進むのは時間がかかりすぎますので、王族にしか伝わらない道を使います」

「なるほどな。

 退路を利用するってことか」


 頷きながらヴァルトさんは言葉にした。

 確かにそれなら王城まで進める。

 それも最短距離で真っすぐに。


 しかし、この道にも問題はあると彼女は言葉にした。


「出口はラウティオラを見通せる場所まで通じてるそうですが、私も正確にはその場所を知りません。

 探すとなれば相当時間を要することになりますし、城内の守りが徹底される前に辿り着いたほうがいいですから、それは使えません」

「そんじゃ、どうすんだ?

 王都を突っ切るわけにもいかねぇし、王族の逃げ道も使えねぇんじゃ地下水道を通るってことか?

 ……まさか、物理的に真っすぐ進む、なんて荒業じゃねぇよな?」


 呆れながら一条はレフティさんに訊ねるが、それこそまさかだと彼女は答えた。

 そんなことをすれば上にある建物が崩壊しかねないし、そうなれば俺たちもただじゃ済まない。


 さすがにそれはないと思いながらも、俺はあることに気付いた。


「地下水道と言っても、空気を取り入れるようになってるのか……。

 通気口のようなものがなければ色々と問題もあるだろうから、その場所さえ分ればそこから入れるってことですか?」

「そうです。

 その場所をロヴィーサ様から教えていただきました。

 王都をご一緒してる時に雑談として話してくださったものですが、現在でもあることは確認済みです」

「……雑談で話す内容じゃないぞ、それは……」


 どうやら俺だけじゃなく、みんな同じように呆れていたようだ。


 言葉にしたアーロンさんは憲兵だからな。

 防犯的に物を申したい気持ちが強いはずだ。


 レフティさんを信頼してのことなのは間違いないが、それでも伝えていい内容だとは思えないし、ましてや王族が秘密裏に使う逃げ道について話すことは大きな問題になる。


 それに脱出路とは、王国が建国された当初から造られているものだろう。

 だからこそ、その情報を知る者は王族の中でもかなり限定されるはず。

 恐らくは王族の中でも王に近い立場の者にしか伝えられない秘密だとも思えるから、それをなぜ伝えたのかと考え込んでしまう。


 しかし、続く彼女の言葉に、俺たちは目を丸くした。


「"きっと近い将来、必要になると思うわ。

 だから憶えておきなさい"。

 そうロヴィーサ様は仰いました」


 ……魔王を予見していたとは、さすがに思えない。

 恐らくは、曖昧でも気になることがあったんだろう。

 それが何かは明確に答えられなくても、そうすることが正しいと王女様は感じていたのか。


「……気になることは多いけれど、ひとまずは道が開けそうね」

「……え、いいのかよ?

 気になるだろ、そんな重要な言葉を言われて」

「……カナタ。

 それを確かめるには、ロヴィーサ様に直接お伺いを立てなければ難しいの。

 今は調べてる時間もないから、あたしたちはあたしたちのするべきことに集中しないとダメ」

「一条が言うように、気にならないわけじゃない。

 けど、たとえ王女様の真意を知ったところで変わらないんだ。

 今はただ、目的のために俺たちは進むべきなんだよ」

「……お、おぅ。

 確かにそうだな」


 一条は納得してくれたが、新たな問題も出てきた。

 それについて聞いてるかもしれないから、確かめるべきだな。

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