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誉め言葉として

 徐々に王都を視線に捉えられる位置までやってきた。

 だが、やはりと言うべきか、俺たちは違和感を覚えた。


 真っ先に言葉にしたのはバルブロさんだった。

 当然と言えば、当然の反応ではあるが。


「……なんだ?

 街門が閉じられてるじゃねぇか。

 まさか周囲に危険種でも出たってのか?」


 答えられず、俺は黙り込んでしまう。

 なんて伝えればいいか悩んでしまった。



 街門が閉じられる理由は極端に限られる。

 そのうちのひとつが最も頻度が高く、まずこれが答えになる。


 危険種の出現と、周囲にまで迫る危機的状況である可能性だ。


 この場合、緊急時の措置として街門が固く閉ざされる。

 当然、人の出入りも制限されるが、余程のことがない限り入ることは問題ない。

 むしろ、対象の討伐が確認された上で周辺の調査を開始し、脅威が去ったと判断されるまで街門が一般開放されることはないと聞いた。


 こうなると冒険者も町を出られなくなる。

 実力があれば危険種討伐の参加にギルド側から依頼されるが、それ以外の者は町で過ごさざるを得なくなるのが冒険者のルールだ。


 自分勝手に動き回れば、余計な面倒事に繋がるからな。

 相手は言葉も通じなければ意志も伝わらない相手だし、討伐しか解決策がない以上、それを最優先に考えるのは当然だ。


 トルサで問題となっていたティーケリは、まだ森の中腹部にいると判断されたことで警戒態勢が取られた程度で済んだが、もしもこれが浅い森にまで迫っていた場合は確実に厳戒態勢が敷かれ、俺もしばらくは町を出られずにいただろう。

 後々に生じる事案を考慮すれば、とてもではないが笑えなかった。



 だが、街門が閉ざされていようと、俺たちには進むしかないんだ。

 どう見ても俺たちを警戒してるとしか思えないんだが、まだ分からない。

 本当に危険種が出てる可能性も捨てきれない以上、軽率な行動は取れない。


「……ともかく、行ってみよう。

 状況が掴めるかもしれない」


 曖昧な言い方をしたが、確実に分かるはずだ。

 向こう(・・・)の出方次第で、俺たちの対応も激変する。

 最悪の場合、強行突破せざるを得なくなるかもしれない。


 しかし、その場合はあらゆる面で不利になる。

 何よりも王国兵士たちを掻い潜りながら広い王都を駆け抜けるのは、さすがに無理がある。

 手荒な真似をすることになるだろうし、できればこの手段は取りたくない。


 王の指示として従ってるだけにしろ、魔王に操られてるにしろ。

 王国兵士は被害者であることに違いはないんだから、問答無用で殴り飛ばすわけにはいかないし、そんなことをすれば敵をさらに引きつけ状況を悪化させることにもなりかねない。


 これに関しても事前に仲間たちと話し合ったが、結局は向こうの出方次第で極端な状況になるだろう。


 悪く言えば、結局行動しなければ分からない、という意味になる。

 そもそも悪い意味で人智を超えた存在を相手にしようとしてるんだ。

 行動原理が理解できないのも当然だと、俺には思えてならなかった。



 街門には5名の兵士が立っているようだ。

 バルブロさんとはここで別れたほうがいいかもしれない。


 結局は魔王を斃すか、それとも一条が倒された時点で世界の命運は決まる。

 バルブロさんの顔が割れたところで俺たちが目的を達成すれば済む話ではあるが、面倒事に巻き込むのは得策じゃない。


 仲間たちに視線を向けると、一条も含め頷いて応えた。

 ……なら、ここからは俺たちだけで行くとするか。


「バルブロさん、馬車を止めてくれ。

 俺たちは歩いて王都まで行く」

「……あ?

 なに言ってんだ?

 王都まで連れて行くのが俺の仕事だぞ?」


 危険種の出現が疑わしい状況下で、バルブロさんとしては軽々しく容認できるものではないと理解していたが、それでもこれ以上俺たちと関われば大きな問題に発展する可能性も考えられた。


「最後まで仕事を貫くぞ、俺は。

 お前たちを王都に連れて行くまで戻るつもりはねぇ」

「……頑固だなぁ、おっさん……」

「誉め言葉として受け取っておく」


 ただならぬ気配から何かを察したのだろう。

 トルサを拠点に活動してるのなら、危険種とは違う可能性にも気づくはずだ。


 確定的なのは王国騎士団の副団長であるアイナさんと、王国魔術師団次席のレイラが同行してる点に加え、トルサの憲兵隊長まで武装した上で王都に出向いてるとあれば、子供でも只事ではないと判断するだろう。


 しかし、街門まで俺たちと同行すれば何が起こるか分からない。

 バルブロさんも王国兵士に狙われる事態となる可能性だって十分に考えられるのだから、できればこの場で別行動を取りたいところだ。


「……お前らが何を抱えてるのかは、想像することしかできねぇ。

 それでも、俺は職務を放棄するつもりはねぇからな」


 彼の意志力の強さに、苦笑いが出そうになる。

 トルサにこんな堅物がいたとは、想像すらしてなかった。


 もしかしたらトルサに滞在していた時に出会っていれば、リヒテンベルグまでの旅路に同行してくれた方なんじゃないだろうかと、本気で思えた。

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