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覚めなければ

 行動を起こす前から答えなんて出るはずもない。

 結局のところ、結果でしか判断できないんだろう。


「……自問自答の日々。

 それはきっと当たり前で、そうすることはとても大切。

 でも、答えが出ない問答をひたすらに続け、ようやく見つけ出したものは不正解かもしれない。

 どんなことにも失敗や間違いは必ずある。

 後悔し、次こそはと強く決意しても叶わない。

 それの繰り返しが人間の本質だとあたしは思う。

 だから、悩んでも迷っても、あたしたちは進み続けなければいけない。

 それが光の届かない暗闇に閉ざされた道でも、たとえ一歩でも踏み間違えれば落ちる絶壁だったとしても、あたしたちが立ち止まることはできないのだから」


 静かな口調でありながらも、込められた想いはとても強いものだった。

 きっと、これまで自分に言い聞かせるように頭の中で繰り返してきたのかもしれないな。


 ……レイラの言う通りだ。

 だからこそ俺たちは、勇気を出して足を踏み出さなければならない。

 それが奈落の底へと落ちてしまいそうなほどの細い道だろうと、心を奮い立たせて前へ進まなければならないんだ。


 重い選択だ。

 いっそゲームであれば、これほど悩んだりはしない。

 それがたとえ人の生死に関わる問題だとしても、ゲームだからと割り切れる。


 だがこの世界は違う。

 人それぞれに大切なものがあって、護りたいと強く願いながらもそれを赦されず、ただただ一方的に蹂躙されてしまった。


 同時に、俺たちの敗北が導くのは"すべての消失"だ。

 軽々しく選択できるような問題では元々ないんだ。

 情けないことに、俺はその一歩を踏み出せずにいる。


 たった1日で出せる答えではない。

 悩むのも踏ん切りがつかないのも当然だ。



 ……弱いな、俺は。

 ここぞという時に選択できずにいる。

 このまま行動すれば最悪な状況に繋がるかもしれないと思うと、どうしても足が止まってしまう。


 かかっているのは、俺たちの命だけじゃないからな。

 すべてが無へと帰すことだけは絶対に避けなければならないが、想いだけではどうにもできないこともある。

 どうすれば最良の結果を導き出せるのか、俺には答えが出せずにいた。


「……大丈夫」


 情けないと自分を恥じた俺の耳に、レイラの言葉が優しく届いた。

 とても澄んだ声色で、それでいて明確な信念を感じさせる上に不思議と落ち着けるような、そんな美しい旋律を思わせる声だった。


 思わず目を丸くしながら俺はレイラがいる方を向くと、そこにはまるで悩みなど何もないと感じさせる、心穏やかな表情をした仲間たちがいた。


「……全人類を護るための戦いなんて、重過ぎるよね。

 でもね、ハルト君もカナタも、護るための戦いをしなくていいんだよ」

「そうだぞ。

 俺らはもうとっくに腹括ってんだ。

 言葉は悪いが、他の奴らは平穏な日常を生きてる(・・・・・・・・・・)

 なら、お前らはお前らの目的に集中するべきだ」

「アタシらはよ、長く生き過ぎてんだ。

 おおよそ人間のそれとは比べられねぇほどに、な。

 他の連中はきっと、何が起きてんのかも分かんねぇ状態で"その時"が来ることになるんだろうから、そこまで深く考え込まなくていいと思うぞ」


 ……考え込まなくていい?

 そんなことが、赦されるのか?

 俺たちはそのために呼ばれたんだろ?

 もし失敗すれば、すべてが無に帰すんだぞ?


 考えていることが丸分かりだったんだろうな。

 "お前らしいな"と言わんばかりの苦笑いを4人は見せた。


「ハルトさん、カナタ。

 私は、こう思うんです。

 この世界はもう、とっくの昔に"滅んでいる"と。

 こうして生活ができているのは魔王が今も見せている幻に過ぎず、実際にその身はとうに朽ち、それでもありし日の夢を見続けているだけなのだと。

 ……それは、とても悲しいことだと、私には思えてなりません」


 ゆっくりと空を見上げながら、アイナさんは言葉を続ける。

 それがどんなに心地良いものだとしても、このままではいけないのだと。


「……夢なら、覚めなければ。

 そうしないと、きっと"明日"には繋がらない。

 ……でも、私たちにその手段はありません。

 結局はおふたりのお力がなければ、眠りから覚めることができないんです。

 だから……」


 そう彼女は言葉にしながら、俺の目を真っすぐ見た。

 その透き通る(まなこ)には一切の淀みが感じられず、それでいて物悲しい気配で溢れているものだった。


「……"終わらない明日"へ繋げるため、どうか私たちを目覚めさせてください」

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