いちばんの恩返し
「ここに来んの、久しぶりだな」
不思議と前に来た時とは違った景色に見えた。
寂しい場所だと思ってたのに、なんか心が落ち着くんだよな。
目的の場所まで来ると、俺は墓碑に小さめの花束を供えて手を合わせた。
「綺麗だよな。
ばあちゃんが好きだった花を集めて花束にしてもらったんだ。
……たぶん、もうここに戻れねぇ気がするから、いま言っておくよ。
ありがとうな、ばあちゃん。
……それと、ごめんな。
心配ばっかかけてたろ?
危なっかしくて、ハラハラしてたかもしれねぇけどさ。
リヒテンベルグに来てから随分頑張ったんだ。
俺なりに、だけどさ」
……ここは静かだな。
まぁ、それもそうだよな。
たくさんの人が眠ってる場所だもんな。
「……ばあちゃん。
俺たち、これから町を出るよ。
魔王を倒して世界を救う旅に出るんだ」
そうしたい気持ちと、そうしなければならない気持ち。
前よりも俺の中でずっとずっと強くなってるんだ。
……正直に言えばさ、こんな気持ちになるとは思ってもみなかったよ。
なんて言うのかな、こういう気持ちって。
良く分かんねぇけど、不思議と悪い気持ちじゃないんだ。
……俺さ。
ガキの頃から"勇者"に憧れてたからさ、この世界に召喚されて勇者として認められたことが嬉しかったんだ。
馬鹿みたいに喜んでさ、アイナとレイラ振り回して。
……楽しかったよ、この世界で旅ができて。
色んなやつに出会ったし、ムカつくやつは喧嘩売ってぶっ飛ばしてきた。
美味いもんも食ったし、綺麗な景色も見てきて、本当に楽しかったよ。
でもさ……。
俺は、なんも見えてなかったんだ。
見ようとすらしていなかったんだと思う。
この世界がどんな状況なのかを。
世界にいる人たちがどういう存在なのかを。
全部悪いのは魔王だ。
あんなやつがいるから苦しむ人たちがいる。
人の命を道具としても見てない、最低最悪のクズだよ。
だから、俺たちは行くよ。
俺に魔王が倒せるのか悩んだこともあったけどさ、考えるの止めたんだ。
"俺にやれるのか"じゃなくて、"俺がやるんだ"って思うようにしたんだよ。
魔王を倒せば世界は救われる。
世界が救われれば、今よりもずっと幸せに暮らせる。
もう"光の壁"で護られる必要もなくなるような、そんな当たり前の世界になる。
女神様がさ、みんなに祝福をくれるって言ったんだ。
ばあちゃん時みたいに、抱えてる病気を全部治してくれるんだ。
リヒテンベルグの人たち以外は世界からいなくなっちまうみたいだけどさ。
それでも、今よりもずっとずっと静かに暮らせるんだって俺は信じてる。
……本当は、ばあちゃんにもそんな世界で過ごしてもらいたかったけどさ……。
でもさ、もしも天国が女神様んとこの"管理世界"みたいな場所ならさ、きっと今もばあちゃんは幸せに過ごしてるんだって……俺は、思うように、したよ……。
俺のこと、心配だろうけどさ。
もう、俺は大丈夫だから。
独りじゃ不安だけどさ、鳴宮も一緒だからな。
こんなこと、あいつには言えねぇけど、すげぇ感謝してるんだ。
色んなことを教わっただけじゃなくて、強くしてもらえたからな。
あいつがいたから、今の俺がある。
アイナもレイラもヴェルナもサウルも。
みんな、俺のために努力してくれた。
ジークリットさんや、リヒテンベルグの人たちにも世話になりっぱなしだから、このまま旅立つのもあれだけどさ。
魔王を倒して世界を平和にすることが、いちばんの恩返しだと思うんだ。
……そんじゃ、ばあちゃん。
元気でな……ってのは、ちょっと違うか。
でも俺のこと、天国から見守らなくていいよ。
ばあちゃんには静かな場所でゆっくり休んでほしいからな。
あとは全部、俺たちに任せてくれ。
必ず魔王を倒すから。
約束、するから。
だからばあちゃんは何も心配しないで、ゆっくり休んでくれよな?
きっと来世では幸せに暮らせる世界になってるから、安心して休んでくれよな?
「……いってきます。
エルネスタのばあちゃん」




