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それでいいじゃねぇか

 だが、続くアリアレルア様から、とんでもない内容が含まれた話が飛び出した。


「魔王はすべての物理的な攻撃を無効化しますが、魔法耐性を考慮すれば精神エネルギー体の中でも倒せる敵だと我々は判断しています。

 問題はすべての攻撃が通じない場合、神々が地上へ顕現しなければ斃せないような厄介極まりない存在となるのです」


 女神様が精神エネルギー体と呼んだ表現はいまいち把握し辛いが、要は魔法にのみ耐性が低く弱点となりうることを指しているんだろう。


 だが、気になるべきはその部分じゃない。

 この世界を壊滅させた魔王が、まだ倒しやすい敵だと女神様は言葉にしたのと同じになる。


 にわかには信じられず、どう反応していいのからですら分からない俺は、女神様の話に驚愕することしかできなかった。


「仰りたいお気持ちは分かります。

 ですが現在、ある世界では物理も魔法も無効化する"完全耐性持ち"が出現し始めています。

 これは前例のない最悪の事態となります。

 本来は管理者たる女神ですら軽々しく地上へ顕現できませんから」

「……そ、そんな相手、人間にどうこうできないだろ……さすがに……」


 一条の言う通りだ。

 それは最早、神々でしか対処ができない"最強の敵"だとも思えた。

 恐らくは地上への影響を考慮しても、神々が顕現せざるをえないはずだ。


「確かにそれを考えれば、この世界の魔王はまだ対処のしようもある。

 だとしても、魔法のごく一部しか通じない相手である以上、厄介なことに変わりはないが」


 同時にそれは、異世界人でなければ対処ができないことになるだろう。

 数十年に一度のペースで光や闇といった特殊な属性持ちが生まれることもあるそうだが、現在ではリヒテンベルグのみとなった住人たちから生まれるケースは非常に稀ですらなく、たとえ勇者の誕生を待とうと望みは絶たれたと思っていいほどの確率になるはずだ。


 そういった意味では、本当に詰みかけているんだ、この世界は。

 残された人類に魔王を討伐する術はなく、リヒテンベルグから光の勇者が誕生することもまずありえない。


「……情けない限りです。

 この世界のことは、この世界の住人が解決するべき問題なのですが……。

 こうして女神様のお慈悲とみなさまのご協力がなければ、リヒテンベルグの存続すら最早不可能なのです……」

「いまさら言ってもしょうがねぇよ。

 そもそも魔王の出現だって突発的なもんだったんだろ?

 まぁ、俺たちが倒せるってんなら、それでいいじゃねぇか」


 正確には光の勇者である一条が、ではあるが。

 それでもサポートくらいはできるからな。

 俺にできる最善の選択をするだけだ。


「でもよ、剣も魔法も効かないなんて、文字通りの"無敵"じゃねぇの?

 そんなやつを倒せるのは神様だけってんなら、その世界も随分と荒れた(・・・)のか?」


 たしかに、神々が地上に顕現した場合の影響は計り知れないらしいからな。

 最悪の場合は世界の中心にある(コア)すら傷つく可能性すら考えられた。

 修復不可能な星の心臓部が傷めば意味が変わってくる。

 どんな手段で対処したのかを聞きたい一条の気持ちも理解できた。


 しかし、女神アリアレルア様の発した言葉に俺も含め、この場にいる全員が凍り付くことになる。


「敵を討伐したのは、世界の管理者ではなく地球人。

 それも、おふたりと同年代の男性で、ある意味では同郷と言えるかもしれない日本からの転移者です」


 ……あまりの衝撃に、俺は言葉を完全に失った。


 それはつまり、完全無効化の耐性持ちを倒せたってことだ。

 言うなれば、神々でしか倒せない領域に到達した武人がいるのと同義で、達人とすら呼べないほどの圧倒的な技量を持つことは間違いない。


「……そんなこと……人間に、可能なのか……」


 ようやく出せた言葉ではあるが、それでも信じられない気持ちしかなかった。

 人にどうこうできない相手を倒せたとは、とてもじゃないが理解できないし、現実に存在するとはさすがに考えにくい。


 おまけにそいつは"日本人"だと女神様は言葉にした。

 それも、同年代の男だと。


 女神様が嘘をつく必要など皆無だ。

 そんなことは絶対にないのだから事実なんだろう。

 だとしても鵜呑みにはできない話に、俺は混乱することしかできなかった。


「もちろん、カナタさんとハルトさんがいた日本とは違います。

 ……"並行世界"と言葉にすれば、ご理解いただけるでしょうか」

「なるほどな。

 だとすれば会えないか。

 かなり興味が湧いたんだが」


 同年代で圧倒的な領域に足を踏み入れた男とか、武芸者としては一度でいいから会ってみたいと思えた。

 必ずいい刺激になるはずなんだが、会えないんじゃ期待するだけ無駄か。


 当然のように、サウルさんたちには理解し辛い話だったようだ。

 首を傾げながらヴェルナさんは訊ねた。


「……なんだよ、"ヘイコウセカイ"ってのは。

 アタシらにも分かるように言ってくれよ」


 なんて説明すればいいんだろうか。

 俺たちは創作物で馴染みがあるんだが、意味を伝えるとなると難しいな。


「この世界にそっくりで、だけどまったく別の世界、が適切だろうか。

 別世界だから住民に会うことはできないし、向こうもこちらに来れない。

 俺たちには、その存在すら想像するしかできないような世界のことだよ」

「……難しい話だな。

 俺らにゃ良く分からん世界観の話か?」

「まぁ、その認識でいいと思うよ。

 俺らの世界でも並行世界の存在を証明できた人はいないんだ。

 だから曖昧な空想上の世界だと大抵の人は思ってるし、俺も一条もそういったことが書かれた創作物に触れているから知っているだけなんだよ」


 ……だが、曖昧に思えた世界を証明することはほぼ適った。

 そう言っていいような"勇者召喚"に俺たちは巻き込まれたんだ。

 まして"管理世界"や女神様が実在してる以上、並行世界が実在したとしても何ら不思議なことじゃない。


 信じられない気持ちは変わらないが、それはつまるところ"知らないだけ"だ。

 別世界を管理する神々とも親交があると言っていたアリアレルア様たちであれば、それこそ地上に顕現した際の影響さえなくなれば"自由に行き来できる"って意味になる。


 そこから考えても、地球とそっくりの世界があったからといって、別段驚くような話ではないのかもしれないな。


 ……さすがに信じることは難しいが。

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