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力になれるのなら

「今回で水鏡(みずかがみ)の役目も終わりとなります。

 すべてが上手くいけば人の子たちには必要なくなりますから、魔王が討伐されたのちは私の言葉を映し出すこともなくなるでしょう」


 気になる言い方ではあるが、確かに女神様の言う通りだ。

 それに元々あれは緊急連絡用に作ってもらったものだろう。


 神様の言葉が届かないことに不安を覚える人も出てくるとは思う。

 それでも、脅威が去った世界にそんなものは不必要だからな。


「水鏡は、私との交信用のためだけに作っていただいたものではありません。

 あれには"ポータル"としての役割を持たせ、みなさんが集う機会にお呼びするための設備でもあるのです」


 いわゆる転送装置のようなものだと、俺たちふたりにも分かりやすいように教えてくれた。

 残念ながらサウルさんたちには理解できないようだが、一瞬でこの管理世界まで移動させるものだと話すと理解できたようだ。


「……すげぇんだな、女神様ってのは……」

「女神様なんだから当然だろ?」

「その言い方はさすがに失礼だぞ、一条」

「けどよ、やっぱ超人的なことができてこその神様だろ?」


 否定できないが、それでも面と向かって言葉にできる根性が凄いな、こいつは。

 正直に言えば見習いたくもないが、その図太さは魔王戦にも役に立つかもしれないなんて、くだらないことを考えてしまった。


 少しだけ困った顔をした女神様は、どこか申し訳なさそうに答えた。


「神を名乗っていますが、人の子に崇拝されるような存在ではありません。

 "先見"や"創造の力"を持ちますが、それでも私は人の子たちよりも頑丈で特殊な力を持つ種族のひとつにすぎませんし、何でもできるわけではないのですよ」


 全知でもなければ全能でもない。

 彼女たちの種族は本当にそういった存在ではないのだろう。


「もし仮にそんな高次元の存在がいるのなら、逢ってみたいものですね」


 彼女は微笑みながら言葉にした。

 思えば俺たちのいた世界ではそう呼ばれる存在がいた。

 当然、会ったこともなければ、実在するとも思えないが。


 少なくとも神の存在を証明できたと俺は判断するが、きっと地球にも管理世界で見守るアリアレルア様のような神様がいるんだろうな。



「では、ジークリットさん。

 ハルトさんのための刀を」

「はい。

 こちらが"ミスリルクロム"製の日本刀になります」


 ジークリットさんは両手に持ちながら、捧げるように刀を差し出した。



 ミスリルクロム。

 魔力を極限まで練り込ませたミスリルに最高純度の"魔晶核結石"を最高峰の魔術師と最高の魔工技術で組み合わせた、この世界で最も硬い金属だと説明を受けた。



 受け取ることなく宙に浮かせた女神様は言葉にした。


「魔法銀純度99.58%。

 本当に素晴らしい出来栄えです。

 人の子がこれほど完成された魔法銀を生み出せたのは、長い長い人類史上でも初めてのことですね。

 この刀は人の子に破壊することすら困難を極めるでしょう」

「すべては女神様とレイラさんのお力によるものです」

「……違う。

 エルネスタさんの力と、世界最高の魔工知識や技術がなければ不可だった。

 あたしだけじゃ到達できなかった領域なのは間違いない」


 いつになく強い口調で言葉にしたレイラ。

 ずっと世話になりっぱなしだったな、エルネスタさんには。

 恩を何も返せなかったことに申し訳なく思うが、せめて魔王だけは必ず討伐するように最善を尽くすつもりだ。


 そのための武器となる刀にアリアレルア様は力を込めた。


 美しい薄水色の光に包まれ、淡く光を放つ刀身。

 次第に光は落ち着いたが、その内側にはすさまじい力の奔流を感じさせた。


「まるで激流のような凄まじい力の流れだ。

 武器としても世界最高の出来なのは間違いない」

「そうなのか?

 ……俺にはあんま分かんねぇな……」


 一条は未だに気配を読めないわけじゃない。

 模擬戦ではしっかり俺たちの動きを気配で追えている。


 これも勇者としての才覚なのかは分からないが、こいつの知覚するものは"悪意"に偏ってる。

 むしろ魔王討伐のために特化した技能とも言えるかもしれないな。


「それでも3度攻撃するのが限界です。

 この祝福は確かに強力なものではありますが、世界に悪影響を当てない限界で留めるより他がありません。

 恐らくは魔王に対して、2秒ほど動きを止める効果しかないでしょう」

「十分だ。

 俺の攻撃がわずかでも一条の力になれるのなら、それに越したことはない」

「それなんだけどよ、なんで魔王は光の魔力でしか倒せねぇんだ?」


 ……いまさらそれを訊ねるのかよ……。

 なんて言ったところで、こいつには理解できないか。


「魔王は物理に対する完全耐性を持ち、魔法もほぼすべてが無効化されます。

 これは肉体を持たない上に、精神体の中でもかなり特殊な能力を持つからなのですが、攻撃が通じる方法はひとつだけあるのです」

「それが勇者の放つ"光の一撃"、か……」

「はい。

 故に、異世界から光の魔力を持つカナタさんをお呼びしたのです」


 なぜこいつが光属性の魔力を持っているのかは気になるところだが、むしろ魔力を持つのに地球人は使い方を封じられているのだと彼女は話した。


 それにも見当がつく。

 魔力が存在すれば、科学文明と複合させた"魔法化学"が発展してしまう。

 どちらも世界を破滅させうる潜在能力を秘めているもので、仮にそれを合わせてしまえば一瞬で世界が崩壊してしまう可能性すらあるようだ。


 魔法による身体能力を極めれば、まるで消えたように敵を切り捨てることが可能になるだけじゃなく、最悪の場合は広範囲を崩壊させうる凄まじい攻撃魔法を編み出されてしまうだろう。


 そうならないようにと世界を放棄した前任者は封印処置を施していたらしいが、もしも仮にそれすらなければアリアレルア様でさえも一度世界を完全に崩壊させ、創り直さなければ解決できなかったと断言した。


 逆に言えば、人にはその可能性が確実にあったということになる。

 "人の可能性は無限大"だと誰かが言ったが、本当に笑えない話だな。

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