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とても興味深い

 淡い水色の光に包まれたエルネスタさんは、瞳を開けながら女神アリアレルアから授かった情報に意識を集中させた。


 いったいどういう原理で知識を与えたのか。

 正直聞きたいところだが、聞いたとしても理解できるはずもないんだろうな。


「何かご質問はありますか?」

「いえ……ただ……」


 そう言葉にした彼女は言葉を詰まらせる。

 その可能性もあるだろうと思っていた。

 女神様は気になる表現をしたからな。


「"もし指示通りの性能を持つ武器を人の子で生み出せれば"、か。

 相当厄介なのは理解できますが、実際のところ可能ですか?」

「……本音を言えば、何とも……。

 リヒテンベルグの技術者と検討する必要があることは間違いありません」


 となると、やはり人間にそれを生み出すのはかなり難しいってことか。

 少なくとも現段階で実現させるには、相当の苦労が必要になりそうだな。


「……女神様。

 その情報を()にも授けていただけませんか?

 曲がりなりにも私は魔術を嗜みます。

 何かお役に立てることがあるかもしれません」

「どうか、普通にお話しください。

 私は神を名乗りましたが、みなさんにお慕いされるほどこの世界に祝福を与えたわけではありません。

 しいて言えば、異界から救世主を招いただけに過ぎませんし、それもおふたりの気持ちを一方的に無視した暴挙であることも間違いないのですから」

「……ですが……」


 困った表情を見せるレイラなんて初めて見るが、相手が相手なだけに礼儀を重んじるべきだと考える彼女も気持ちも良く分かる。


「なぁ、レイラ。

 女神様がやめてくれって言ってるんだから、むしろそれを無視すんのは逆に良くないんじゃないか?」

「……ぅ」


 一条から正論を言われるとは、彼女も思っていなかったようだ。

 まさか、言葉に詰まるレイラを見ることになる日が来るなんてな。


 だが、これに関しては俺も同意見だった。

 必要以上の敬語や丁寧語はかえって失礼だと俺は判断した。


 さすがに目上どころじゃない方に対しては失礼にも思えるんだが、それも本人が望んでいないのなら話は変わってくるからな。


「……わかり……ました……」

「ありがとうございます。

 では、その知識をレイラさんにもお渡しします」


 女神様は右手を彼女にかざし、力を込めた。

 優しい薄水色に包まれた光は徐々に落ち着きを見せる。


「……そんで、どうなんだ?

 レイラなら何かいい手が思いつくか?」

「……困った。

 これは相当難しい」

「具体的に話してもらわねぇと分かんねぇな……」

「……カナタ、魔法銀精製と魔力の関係を詳細に説明して理解できる?」

「無理だな!!

 5分で寝れる自信があるぜ!!」


 落ち着いていた頭痛が俺の頭を再び襲った。

 同時に深いため息が、女神様とエルネスタさん以外から溢れた。


「……ともかく。

 あたしの知識は偏ってるけど、専門分野が違うとは言えない。

 魔法銀に魔力を込める応用で何とかなるかもしれないけど、それには"魔晶核結石"の理論を深く理解するところから始める必要がある」

「情報開示は可能ですので、我々の知識をお役立てください。

 ミスリル生成ができる方とお見受けしますが、完成品の純度をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「……ん。

 平均純度は97.32%。

 最高で98.65%まで高めたことがあるけれど、さすがにそれ以上の純度までは試したことがない」

「それでも素晴らしい純度です。

 "魔晶核結石理論"を学んでいただければ、きっとそれ以上に純度を上げられるはずですから、とても頼もしく思います」

「……なに言ってっか、分かるか鳴宮?」


 なぜ俺に聞く。


「専門外だな」

「そこは"わかんねぇ"って素直に言えよ……」


 揚げ足を取りやがって。

 俺は武術に関しての知識に偏ってるんだよ。

 それに彼女たちが話してるのは、この世界でのみ使われる魔工技術の話だ。

 逆に知ってる方がどうかと思うが、話したところで返ってくるのは無駄口だな。


「エルネスタさんの知識をレイラさんに送ります。

 そうすることで時間を大幅に短縮させられますから、より鍛錬に集中できるでしょう」


 それも"先見"の力で見通していたんだろうな。

 様々な理由から俺たち全員をこの場所へ向かい入れたのか。


 瞬く間とも言える刹那で知識を共有したふたりだが、それが思いのほか重要なファクターになりそうに思えた。


「……なるほど、これが"魔晶核結石理論"」

「理解できたのか?」

「……ん。

 とても興味深い。

 まずは実験と検証が必須だけど、おおむね前向きに検討できるまでに至った」

「……マジかよ……。

 って、ことはよ?

 鳴宮の武器も作れるのか?」

「……まだ確証はない。

 でも、できると思う」

「すげぇんだな、女神様もばあちゃんも……」

「それを言うならレイラもだろ?」


 いくら知識を共有できたとしても、その情報だけでこれほどの自信は持てないだろうし、何よりも彼女がこれから作ろうとしているものは、この世界はもちろんリヒテンベルグの民にも製造が非常に難しいと判断した武具、正確にはそれを作るための鉱石のはずだ。


 つまるところ世界初の技術で、間違いなく最高のひと振りを彼女たちはこれから作り出そうとしている。


 これがどれだけ凄いことなのか。

 さすがに一条は理解してなさそうな顔だな。


「……剣の形状と性能は、女神様にいただいた情報通りに」

「そこから"魔晶核結石"を応用した新技術で完成させましょう」

「……まずは短剣から試したい。

 最高のひと振りを加工するのは最終工程で」


 どこか楽しげに語るふたりは、すっかり意気投合したようだ。

 すでに専門的な研究の話に花を咲かせていた。


「期待させてもらうよ」

「……ん、任せて。

 必ず"最高のひと振り"を完成させてみせる」

「俺にも作ってくれよ!」

「残念ながら、魔晶核結石を使った武具にカナタさんの力を込めると耐えきれないのです。

 付呪された武器か一般的なものでなければ、光の魔力を使った時点で灰に変わってしまいます」

「……マジか……」


 心の底から残念そうに肩を落とす一条には悪いが、あくまでも俺用の武器として作ってもらおうと思う。


 替わりと言っちゃなんだが、特殊な武器があれば俺も戦える。

 全力でサポートをするから武器は諦めてもらうしかないな。

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