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さぞ大変だったと

「「ノーラはどーっちだ!?」」

「こっちがエレオノーラで、こっちがエレオノールだ」

「「すごーい!

 またあたったー!」」


 目を丸くしながらも、どこか嬉しそうにふたりは答えた。


 ふたりの間で流行ってる"どっちだゲーム"に俺は付き合っている。

 冒険譚の話を聞かせたり、寝かしつけるように旅の出来事を話したり、休憩時に追いかけっこをしたりとこの数日間で随分懐いてくれたふたりだが、もうそろそろ旅も終わりを告げていることにこの子たちは気付いていない。


 それとなく両親にどうすればいいかと訊ねたが、どうやらふたりの様子から大泣きされることは目に見えているのだとか。

 どうしようもないとはいっても、やはり泣かれるのは堪えるだろうな。


「むしろ、ふたりにとっていい経験になると思うよ」

「そうね。

 乗合馬車って、そういうものだものね」


 大らかな両親は性格通りの答えを言葉にしたが、俺は内心気が気じゃなかった。

 ひまわりみたいな笑顔を見せるふたりから号泣されないようにするにはどうすればいいのかを真剣に考えるが、いい答えなんて見つかるはずもなく、ふたりが笑顔を見せる時間ばかりが過ぎていった。


「それにしても、ハルトさんはよくあの子たちを見分けられるね……。

 情けない話だけど、親から見ても時々外れることがあるのに……」

「そっくりですからね、あの子たちは……」

「まぁ、そういったことには得意なんだよ」


 そう言ってごまかしたが、たとえ同じ服で同じ顔、同じ声に同じ仕草をしてようと確実に言い当てられる要素がふたりにはあったことに関しては伝えていない。


 俺の体得した気配察知は、様々なことを読み解ける。

 サウルさんとヴェルナさんには話したが、双子でも波長は変わらないようだ。


 気配の質、とでも言うんだろうか。

 それがふたりにもはっきりと表れていた。


 たとえ魂を二分割して命を別々の体に宿していたとしても、わずかな差は誰にでもあると思えた。


 一度でも覚えてしまえば、あとはそれに沿って答えれば正解するから、俺としては絶対に間違えることはないゲームをしていることにどこか申し訳なさすら感じるが、それでもふたりは楽しそうだからいいかと楽観的に思いながら、ふたりが別の遊びを提案するまで続けた。


 後にして思えば、あの子たちは"いつもふたりを見分けてくれた"ことが嬉しかったのかもしれない。

 いくら性格が同じに思えても、別々の子として見てほしかったんだろうか。



 それから2日後の太陽が沈みかけた頃、俺たちはリンドホルムに到着した。

 出発にこそ問題はあったが、道中では特に何も起こることがなかったのは良かったと言えるような旅だったんだろうか。


 車軸が折れることもなかったし、やはり何か別の要因があったのかもしれない。

 こんな怖がらせるだけのことを、ふたりの前では口が裂けても言えないが。


「……またね……ハルトおにいちゃん……」

「……ぐすっ……またね……」

「あぁ、またどこかで逢おうな」


 涙でいっぱいの顔を拭いながら、俺は優しい声色で答えた。

 こうでもしないと余計不安にさせてしまうかもしれないからな。

 俺の取った行動が正解なのかは分からないが、それでも落ち着きを見せてくれたふたりに嬉しく思えた。


「本当にありがとうございました、ハルトさん。

 この子たちもずっと離れませんでしたし、さぞ大変だったと思います」

「いや、そんなことないよ。

 俺もふたりと遊べたのは楽しかったからな」


 ふたりはとても素直でいい子たちだし、聞き分けも良かった。

 そういった意味では両親のように甘えてはくれなかったんだろうけど、俺としてもいい旅になったな。


「いつもハルトにべったりだったからな、嬢ちゃんたちは」

「だな。

 ハルトはいい親になるって、アタシらも話してたんだよな」

「……そんなこと言われてたのか。

 悪い気はしないが、子供を持つなんて俺には想像もできないな」

「カナともそういった話はしてんだろ?」

「いや、俺たちはまだ子供だからな。

 まずはそれぞれの道を固めてからって話をしてるよ」


 ……佳菜にはそれとなく指輪を求められてるが、どうも彼女の感性からすると結婚するためのものではなく、未来志向のために必要なんだと思えた。


 男避けにも効果があるから、早めに欲しいんだろうなと思っていた矢先にこの世界へ飛ばされたからな。

 日本へ戻った時に取り乱しながら心配されるかもしれないし、落ち着くまで当分は先のことになりそうだが……。


『好きな人と一緒にいたいって気持ちは、昔から変わらないもの。

 今はまだ学生だし別々の場所で暮らしてるけど、形として残るものを身に付けることで今以上に深い繋がりが欲しいと私は思うんだ』


 ふと、佳菜の言葉を思い起こした。

 それが指輪だとは言わなかったが、それでも"特別なもの"はひとつだ。


 佳菜がそれを望むなら何か良さそうなものを。

 そう考えてた直後に異世界へ飛ばされるとはさすがに思いもしなかった事態だが、できるだけ早く日本に帰りたいところだな。



 いずれは俺も所帯を持つことは間違いない。

 自然と子供を授かり、その子に護身術を教えるようになるのかもしれないが、俺たちはまだ高3だからな。


 まずは高校を卒業、もしくは納得のいく形で終わらせて本格的に道場を継ぐための準備を始めたい。

 佳菜は佳菜で薬剤師になるために薬学部のある大学を目指してるから、数年は自分たちの道を歩み続けるだろう。


 子供を授かるなんて、子供の俺たちには夢のまた夢だな。

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