066 機獣の群れ
秩序の街・多迷宮都市ラヴィリアに急ぎ戻ってきたマグ達は少し離れた位置で装甲車を降り、そこで目にした光景に思わず絶句してしまった。
「……す、凄いことになってるな」
街の半径の倍ぐらいの範囲に夥しい数の機獣が城壁を取り囲むように存在し、その内の半分程度が中心部を目指している。
残る半分は、街に戻ってくる者達を迎え撃たんとするように外側を向いていた。
どう見ても何者かの意思が介在している統率された動きだ。
「既に戦いが始まってますね」
城壁の直前と最外周の辺りで、時折機獣が吹き飛ばされて宙に舞ったり、小規模な爆発が起きたりしている。
衝突音や破裂音、それと怒号が時間を追うごとに大きくなっていっている。
街の中から出てきた防衛部隊と、外から帰還した者達が挟み撃っている形。
そうとだけ書くと有利なように思えるが、挟まれている部分が分厚過ぎて視覚的には全く優位に立っているようには見えない。
むしろ防衛する側が決定的に分断されてしまっているように感じられてしまう。
「機獣の数、全然減ってないです」
「と言うか、むしろ増えてない?」
防衛部隊は間違いなく迫る機獣を着実に打ち倒している。
被害らしい被害が出ている様子もない。
しかし、機獣は無限にリポップしているかの如く徐々に数を増している。
よくよく見ると、どうやら地下、地中から援軍がやってきているようだ。
機獣が形成する輪の内周と外周の中間辺りで補填が繰り返されている。
そのサイクルは城壁側が最も激しく、機獣の残骸が積み上がっていたが……。
「この調子で行くと、ジリ貧ですね」
アテラの言葉を肯定するようにフィアとドリィもまた頷く。
人間よりも優れた視覚を持つ彼女達の目には、防衛部隊の動きが徐々に徐々に鈍くなっていっている様子が映っているようだ。
「旦那様、どういたしましょうか」
選択を委ねるアテラの問いかけに考え込む。
自分達はどう行動すべきか。
マグは答えを求めるように端末に視線を落としたが、通信が遮断されている。
以前のように【アブソーバー】でも使われているのかもしれない。
あるいは、別の何かの要因によるものか。
いずれにしても、この場は個人個人で判断しなければならない。
眼前の機獣の排除に注力するか、強行突破して街の中に入ることを目指すか。
選択肢は二つに一つ。
マグは頭の中で双方を比較し、少しして結論を出した。
「…………今はとにかくASHギルドを目指そう」
現状、やはり情報が不足し過ぎている。
端末が機能停止状態に陥ってしまっている以上、より詳しい状況を把握するためにはもはや直接聞きに行くぐらいしかない。
あちらでも分かっていない可能性はあるが、それはそれで一つの判断材料となる。
加えて、今回は強制招集。探索者としての資格に関わると見て間違いない。
故に傍観や逃亡はない。可能ならASHギルドに顔を出し、きちんと尽力しているアピールをすべきだろう。
加えて、防衛ラインが破られてしまった時を考えるとクリルが心配だ。
万一の時には助け出さなければと思う程度には、彼女には世話になっている。
総合すると一度街の中に向かった方がいい。
「だったら、まずアタシが露払いをするわ。フィア姉さん、お願い」
「はい。シールド同期します」
フィアの返答を受け、ドリィがレーザービームライトの射出口を駆動させる。
そして即座に、最外周のまだ戦闘が起こっていない区域に光線を撃ち込んだ。
本来は非殺傷だった見た目重視の鮮やかな光の筋は、彼女が持つ断片の力によって全く減衰せずに機獣を貫いて破壊していく。
すぐさま補填されるが、供給は間に合わず、敵集団の一部分が抉り取られる。
「よし。あそこから――」
そこを足がかりに押し通らんと、マグ達はフィアのシールドを頼みに駆け出した。
しかし、その瞬間。
温存していた戦力を一気に投入したかのように地下から機獣が溢れ出し、包囲の外周に到達しつつあったマグ達へと殺到してきた。
「近づけさせないわ!」
「おとー様とおかー様はフィア達が守ります!」
それらは多くがレーザーに討たれ、潜り抜けたものもシールドに阻まれる。
機獣達は光の膜にマグ達に機獣達の攻撃が届くことはない。
この場においても彼女達がいれば脅威とはならない。
とは言え。余りの数に視界を完全に塞がれ、歩みが鈍ってしまう。
更に……。
「な、何だ?」
突如として大地が鳴動を始めた。
一瞬地震の地鳴りかと思うが、どこか違和感がある。
音の感じからして、極々狭い範囲の地響きだ。
そう認識した直後。
多くの機獣を巻き込みながら地面が隆起し、何かが地中から飛び出してきた。
マグ達もまたシールドごと弾き飛ばされ――。
「おかー様っ!!」
しかし、直後アテラがスカート部を構成しているタングステンプレートを切り離すと共に、頭部の歯車を回して【アクセラレーター】を起動した。
そして気づくと、プレートを足場にしながら足下の異常から遠ざかっていた。
加えてフィアが光の膜の形状をうまく変化させ、着地の衝撃を和らげる。
それによって全員無事に、少し離れた場所に降り立つことができた。
「これは……」
そうして体勢を立て直し、視線を戻した先。
そこにいたのは、通常見られる機獣の数十倍もある巨大な機械の竜だった。




