046 ルクス迷宮遺跡攻略
遺跡全体に蓋をするかの如く入り口に設置されていた光の罠。
途中、レーザーが格子状になったり、一本に収束したりと管理コンピューターの試行錯誤が見られたものの、全てフィアのシールドには通用しない。
故に、逃げ場のない通路に人体に命中すれば即死だろう光線が降り注ぐ中。
マグ達は歩みをとめることなく、一定のペースを保って進むことができていた。
それからしばらくして。
「旦那様、フィア。間もなく広い空間に出ます。警戒を」
レーザーが折り重なり過ぎて視界不良にもかかわらず、アテラが注意を促した。
音波を以って周囲の状況を把握する先史兵装【エコーロケイト】の力だろう。
リクルから譲り受け、彼女に持たせた出土品の内の一つだ。
この装置から得られた情報を機人としての処理能力を以って分析すれば、例えば音の反射の仕方の違いで落とし穴や隠し通路なども判別できる。
遺跡探索の道標ともなる有能な出土品だ。
「後、五メートルです」
「分かった」
それに基づくアテラの言葉にマグは緊張感を高めて応じ、そのまま通路を抜けた。
彼女が言った通り、バスケットコート程の広間に出る。
内装はシンプルで、まだ工作機械が一つも入っていない工場といった雰囲気だ。
「罠の次は、実力行使のようですね」
そしてアテラがそう告げた直後。
上下左右の壁をぶち抜いて、そこから数十体ものガードロボットが現れる。
不可解なまでの一本道は、侵入者をここに誘導する意図で作られたのだろう。
あの罠を何とか切り抜けてきた者達を、数の暴力で押し潰すために。
「……機獣、か」
無機質な見た目ながら明らかに敵意を感じる存在を前に、マグは口の中で呟いた。
迷宮遺跡を守るために、その遺跡内で生産される防衛装置の一つ。
それらは何かしらの動物を模していることが多く、機獣と総称されている。
マグ達がこの星に転移してすぐ、簡易適性試験で対峙したものもそうだ。
あれは別の難易度の低い遺跡から鹵獲し、試験用に調整したものらしいが。
今回は、あの時の狼の如き姿の機獣は見当たらない。
八本足の多脚型。三六〇度回転するカメラと砲塔のついた頭部。
クモとタコの合いの子のような形のガードロボットだった。
それらはいつの間にか自動修復機能によって直っていた天井や壁にバランスよく整列して射線を確保し、砲塔からレーザーを放ってきた。
「無駄です!」
しかし、全て光の膜が防ぎ切った。
そのことから威力は最大でも罠と同程度と予測できる。
だが、今度は移動砲台であり、マニピュレーターには回転刃が付属している。
機獣達はそれを以って直接攻撃せんと、レーザーを維持したまま近づいてきた。
「フィア!」
そうした状況を前にして、マグは彼女に呼びかけながら銃型の先史兵装【アイテールスラッグ】を片手で構えた。
「はい! シールド、同期します!」
フィアの返答を受け、そのまま即座に引き金を引く。
照準は【エクソスケルトン】のガイドシステムによって自動補正され、素人でも熟練の射撃手の如く標的を狙い撃つことができる。
故に。原炎の弾丸は光の膜をすり抜け、一度に複数の機獣を破壊した。
同時に、マグは己の超越現象で【アイテールスラッグ】の状態を元に戻し……。
本来必要なエネルギーチャージの工程を飛ばし、更に連続して弾丸を放つ。
「アテラ!」
それによって機獣の一角が崩れ、空間を埋め尽くすように全方位から放たれていたレーザーに隙間が生まれた瞬間。
アテラは棒状の先史兵装【モーフィングソード】と【アクセラレーター】を起動し、両手剣を生成すると同時にシールド内部から飛び出した。
マグは攻撃の手を緩めない。
原炎の弾丸は音速を優に超えているが、アテラの移動速度の方が遥かに速い。
時間に干渉している彼女に命中することはあり得ない。
そして十秒後。
アテラは【アクセラレーター】の停止に伴い、再びシールドの内部に戻ってきた。
その時には無傷の機獣の姿は既になく、無数の残骸だけが広間に転がっていた。




