022 マグの力の真価
「こんな……まさか……」
目の前で起きた現象に驚き、呆然としていたクリル。
彼女はしばらくして我に返り、物凄い勢いでマグの顔を見た。
「汝はこの出土品が何なのか理解していたのか!?」
「い、いえ。全く」
強い口調と共に詰め寄られ、マグは戸惑いながら正直に答えを返す。
やはりと言うべきか、形が整ったところで見た目で何の装置かは分からない。
一応綺麗にはなったので美術品と主張できそうかという程度だ。
「では、これは……」
クリルは考え込むように眉間にしわを寄せて俯く。
それから数秒の沈黙の後、彼女はハッとしたように顔を上げた。
「マグと言ったな。力を使う時、何を考えた」
「え? ええと、元に戻るように、と」
つまるところアテラの時の同じだ。
「…………成程。汝の超越現象は修復能力ではないな」
「と言うと?」
「先程も言った通り、修復には対象の機能の把握が不可欠だ。そのようなあやふやな意識では通常の修復能力は発動しない。故に――」
クリルはそこで一拍置き、重大な発見を明かすように表情を引き締めて続けた。
「汝の超越現象は、触れた対象の状態を過去の状態に戻すものだろう」
「過去の状態に……」
彼女の結論を受け、マグはこれまで己の力が発動した時のことを振り返った。
修復されたアテラの前腕。
子供のようになったヒンドランの手。
そして、この謎の出土品。
過去の状態に戻ったと考えると確かに辻褄が合う。
「超越現象は一説には強い求めに応じて性質が決定されるとも言われる。簡易適性試験があのような形なのも、戦闘能力が発現し易いようにするためでもある」
マグは機械仕かけの狼の凶悪な姿を思い出して「成程」と呟いた。
単に危機的状況でこそ現れてくる本性を見るためだけではなかったらしい。
「汝がその力を得るに至った理由、思い当たることがあるのではないか?」
クリルに言われ、すぐ隣で静かに控えているアテラに視線を向ける。
あの時、マグは彼女の破損した腕を元に戻したいと強く願った。
あるいは、それこそがこの力を得るに至った理由なのかもしれない。
「ちなみに、機人については精神性よりも設計思想が反映されると聞くな」
マグの目線に応じてか、アテラを一瞥しながら更に補足を加えるクリル。
彼女はどうも積極的に知識を披露したがるタイプのようだ。
「……しかし、汝の力。それだけでは規格外過ぎる。何らかの制限があるはずだ」
クリルは再びマグに顔を向けて続ける。
「少しつき合え。検証してみるとしよう」
その碧い瞳には、研究対象を前にしたような興味深げな色が浮かんでいた。




