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EX級アーティファクト化した介護用ガイノイドと行く未来異星世界遺跡探索~君と添い遂げるために~  作者: 青空顎門
終章 電子仕掛けの約束

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127 約束

「時空間転移システムの暴走をとめるには本体を直接操作するしかない。そして、暴走は装置を完全停止させる以外にとめられない」

「い、いや…………そうだ。俺が新品同然の状態まで復元すれば、一先ず宇宙崩壊の危機は先延ばしにできるんじゃないか?」


 時間を置いて少しだけ落ち着いた思考で反論するように問いかける。

 理解に特化した力を持つククラなら、その程度のことは考えていて然るべきだ。

 それでもマグは確かめずにはいられなかった。

 自身を人身御供にするような方法を、彼女が淡々と言うものだから。


「ククラ」


 答えを促すように呼びかけると、彼女は首を横に振ってから改めて口を開いた。


「あの振動は時空間転移システムそのものの状態には依存してない。この世界に蓄積され続けた歪みによるもの。今ならまだ時間をかければ解消できるけど……」


 一度そこで区切った彼女は更に言葉を続ける。


「たとえ新品同然になってもアレが起動してる限り、歪みは蓄積され続ける。装置の構造上の問題だから。一度停止したら歪みが消えるまで再起動すべきじゃない」

「歪みが消えるのに、どれぐらい時間がかかるんだ?」

「危険水域を下回るまで数百年」

「……暴走しないように、構造上の問題を解消して再起動したりすることは――」

「無理。今の技術や設備では。それに時間の猶予もない」


 淡い希望を否定するように断言するククラ。

 機械の体への魂の移行と同じように。

 仕組みや改良の方法を直感的に理解できていても、実行に移すことは不可能。

 加えて今回は技術の進歩を待てるだけの余裕もない。

 つまりコアユニットを利用して時空間転移システム本体の場所に転移し、暴走をとめるためにシャットダウンしてしまったら、再度転移することはできない訳だ。


「パパが一緒に行っても死を待つだけ。それに、時空間転移システムの停止動作は僕とオネットにしかできない」


 次にククラから告げられた内容に、オネットへと視線を移す。

 すると、彼女はどこかバツが悪そうな表情を浮かべていた。


「私も、ククラと一緒に行くデスよ」


 当然と言うべきか、オネットもまたククラの考えを把握していたようだ。

 隠していたことに対する後ろめたさはあっても、躊躇いは全く感じられない。


「…………ここから操作することは、できないのか?」

「無理デスね。さすがに本体を遠隔操作できたらセキュリティ的に大問題デスよ」


 時空間転移システムという悪用しようとすれば、いくらでも悪用できる装置。

 当然の対策ではあるが、今この場ではそれが強固な枷となってしまっている。

 思わず眉をひそめる。


「これは仕方のないこと。パパのいる今を守るためには」


 納得がいっていないマグを説得するように言いながら、コアユニットに近づいていくククラ。その後にオネットも続いていく。

【アクセラレーター】の超加速による後遺症や右腕を失ったことで、意識と肉体がちぐはぐになっていて体をうまく動かせず追いかけることができない。

 そんなマグとは対照的に、彼女達の後に続いて二つの影が歩き出す。


「フィア? ドリィ?」

「オネットちゃんとククラちゃんだけだと守りが不十分です!」

「時空間転移システムを狙ってくる輩がいるかもしれないしね」


 ハッキリと言いながらも、どこか寂しげな笑顔と共に振り返る二人。

 何とか近寄ろうと体に力を込めるが、バランスを崩してアテラに支えられる。

 そのまま、ほとんど拘束するように抱き締められた。


「アテラ……」

「ククラが言った通り、これは旦那様が生きる世界を守るために必要なことです」


 状況を静かに見守っていたキリも同意するように小さく頷いている。

 マグ以外は最初から意思を統一していたのだろう。

 アテラとキリは残り、フィアとドリィ、オネット、そしてククラは行く。

 そういう風に。


「言っておくデスが、私達は犠牲になんてなるつもりはないデスからね」

「全部、おとー様とおかー様と皆で幸せになるためです!」

「そのために、一番可能性がある方法を選んでるだけよ」

「一番、可能性がある方法……?」


 マグは戸惑いながら、疑問気味に繰り返した。すると――。


「パパがママと、僕達と同じになったら、必ずまた会えるから」


 ククラは自分自身の言葉を信じ切った柔らかな表情と共にそう告げた。

 宇宙のどこかにある時空間転移システムの本体。

 かつての文明を取り戻そうとしている最中の惑星ティアフロント。

 転移なしには、時間と距離の隔絶は計り知れないものになっているだろう。

 人間の一生程度では、それを埋めることはまず不可能に違いない。

 しかし、機械の体ならば。

 その程度の隔たりなどものともしない未来に辿り着けるかもしれない。


「だからパパ。いつか迎えに来て」


 道はある。しかし、最後はマグの意思次第。

 だからか、ククラは縋るように求めた。

 ……マグは、必ずアテラと同じ存在になると決めている。

 そのための手がかりもククラから得た。

 宇宙崩壊の危機は彼女達が遠ざけてくれる。

 ならば、それに対する返答は一つしかない。


「必ず、迎えに行く。アテラと一緒に」

「約束」

「ああ。約束だ」


 互いに心に刻み込むように視線を交わし続ける。


「キリ。マグ父様を頼むデスよ」

「……了承」


 そして、すぐ隣でオネットとキリがそんなやり取りをした直後。

 オネットが操作したのかコアユニットが作動し、低い駆動音を発し始める。

 やがて、ククラを中心に四人を包み込むような淡い光が発生し……。


「またね、パパ」


 その言葉を合図とするように。

 ククラ達の姿は光の中に消え去った。

 それから程なくして。

 コアユニットは沈黙し、時空間転移システムの停止をマグ達に伝えたのだった。

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