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EX級アーティファクト化した介護用ガイノイドと行く未来異星世界遺跡探索~君と添い遂げるために~  作者: 青空顎門
終章 電子仕掛けの約束

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109 囚われのマグ

 マグの命を盾に取られ、身動きできずにいるドリィ達から離れることしばらく。


「さて、君には少し眠っていて貰おう」


 キリの体を操るメタは、そう告げると何かを手に取って首筋に押しつけてきた。

 すると、【エクソスケルトン】の装甲が全て分解され、更にそこへ自己注射用のオートインジェクターのようなものを突き立てられた。

 そしてカチッという音が耳に届いた直後、意識が急激に遠退いていく。

 完全に気を失う前に見たのは、光学迷彩の機能を持つらしい布を取り払って隠されていたバイクのような形状の乗り物を顕にしたメタの姿だった。

 ……そう思っていたら。


「やあ、目が覚めたね」


 気づくと、秩序の街・多迷宮都市ラヴィリアの管理者の部屋にいた。

 カプセルのようなものに入れられ、白い天井を見上げた状態で。

 そんなマグを、メタがフレンドリーな雰囲気を醸し出しながら覗き込んでいる。

 眠っていた感覚は全くなかった。

 末期癌の時の延命手術も拒否したため経験がないが、全身麻酔を受けた時に経験すると聞く時間感覚の喪失がこんな感じなのだろうかと思う。


「そのカプセルは生命維持装置が働いているからね。安心してくれていいよ」

『何が安心――』


 言いかけて声の感じがおかしいことに気づく。

 どうやら容器の中は何らかの液体で満たされているようだった。

 呼吸をする必要もなく、不自然な程に心地がいい。

 恐らく酸素や栄養素を供給してくれているのだろう。

 声も届いてはいるようだ。


「まあ、信用し切れないのは分かるけどね。この私が罪もない人間を殺すようなことは絶対にあり得ないよ。人間に作って貰ったこの身にかけてね」


 話し方は変わらず、しかし、声色と表情は真剣そのもので告げるメタ。

 確かに命を奪うつもりは全くないようだ。

 彼女もまた人間のために作られたガイノイド。

 急進的な思想も、その根底にあるのは人間への善意に他ならない。

 もっとも、命以外が無事な保証などどこにもない。

 だから安堵など抱けるはずもなく、より警戒を強めていると――。


『……陳謝』


 聞き覚えのない電子的な声が耳に届いた。

 酷く申し訳なさそうだが、声の主に心当たりはない。

 内心首を傾げる。

 その疑問に対する補足をするように。


『彼女はキリ。今の言葉は、襲撃に失敗して体を奪われてしまったせいでこのような状況に陥っていることへの謝罪です』


 更に別の誰かの声が聞こえてきた。

 今度は抑揚を意識的に抑えた感じがあり、落ち着いた女性のような雰囲気だ。

 それはそれとして。


『キリ……ってことは――』


 つまり、先程の短い言葉はオネットと共にメタを狙ったガイノイドのものか。

 彼女が持つ排斥の判断軸(アクシス)・隠形の断片(フラグメント)

 それによってこうして拉致されるに至ったことは変えようのない事実ではある。

 だからこそキリが強い罪悪感を抱き、謝罪の言葉を口にするのも理解できる。

 闇雲にフォローを入れても彼女の心を解きほぐすことはないだろう。

 一先ず、もう一つの声の方に意識を移す。


『貴方は……?』

『私はコスモス。この秩序の街・多迷宮都市ラヴィリアの本来の管理人です。今はキリと共にスタンドアロンの端末に閉じ込められています』

『貴方が。オネットから聞いてます』


 メタが複数持っている断片(フラグメント)の一つ、受容の判断軸(アクシス)・拡張の断片(フラグメント)の力によって支配の判断軸(アクシス)・掌握の断片(フラグメント)を奪われ、管理者の立場を失ってしまった、と。


『キリを恨まないであげて下さい。元を辿れば私の落ち度にまで遡りますし、そもそもこのメタが無謀なことを考えなければよかったのですから』

「相変わらず失礼だね。私は人間の幸せを考えているだけだと言うのに」


 困ったように返すメタのそれは、全て本心で間違いないようだ。

 もっとも、人間で言う狂信や狂気のような気配は欠片もない。

 本当に只々自分自身の用途に対して従順であるだけ、という感じだ。

 しかし、それだけに人間であるマグとしては恐れを抱かざるを得ない。

 燃えるような意思とは異なる、ひたすらに不変の鋼鉄の心。

 いずれにしても話し合いで解決できるような相手ではない。


「まあ、ともかく。期限まで残り六十時間だ。しばらくは暇だろうから、コスモスやキリと話でもしているといいよ」

『…………その期限を越えたら?』

「そのカプセルは享楽の街・遊興都市プレアから取り寄せたものでね。楽しい楽しい夢を見るだけさ。怖がることなんて何一つとしてないよ」


 言葉そのものは紛うことなき事実なのだろうが、それがそのままマグにとっての真実になるとは限らない。

 しかし、囚われの我が身。

 武装もなく、身動きを取ることすらできない以上、抵抗の余地はない。

 復元の力も装置の破壊には使えない。


『アテラ……フィア、ドリィ、オネット、ククラ……』


 だから、今のマグには離れ離れになった彼女達を想うことしかできなかった。

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