指導対局を終えて
梢子との指導対局で一輝は一手損角換わりから右玉に組む。
一方の梢子は7七銀、7八玉、更に6八と5八の地点に金を配置するポナンザ囲いで対抗する。
梢子としては手得を活かして、早めに攻めたいとこだが、一輝のカウンター狙いが目に見えるので、うかつに攻められない。
梢子から見て右辺に飛車がいるので、そこが攻めの中心になるのだが、一輝は右玉で梢子から見た場合玉が遠く攻めに時間がかかる。
逆に一輝は玉と飛車が近いものの、駒を打ちこむ隙が少なく、同時には攻められにくい。
加えて一輝の飛車は梢子の玉に直通する可能性があり、場合によっては飛車を左辺に回して攻撃の地点を変える揺さぶりもある。
梢子はなんとか一輝の飛車が欲しい所だ。何故なら右玉は角の打ち込みにこそ強いが、飛車を打たれれば詰みやすい陣形だ。
とりあえず梢子は棒銀を目指す形をとるが、うかつに銀交換はできないと踏み、銀を引く。
そこから一輝は飛車を左辺に回していき、攻撃の地点を変える。
なんとか梢子も飛車取りを目指しつつ2筋突破を試みる。飛車が成る事には成功するものの、そこから一輝の反撃にあい、自玉が受け無しとなる。
「負けました」
梢子は投了の意思を示し、一輝の勝ちとなる。
「やっぱ強いね長谷君。さすがに勝てるとは思っていなかったけど、けっこうひどかったな」
「とりあえず、局面を戻して少しづつ検討してみよう」
そこから一輝と梢子の感想戦が行われ、梢子が色々と一輝に聞いており、一輝も質問に丁寧に答える。
「じゃあこれで感想戦は終わりだな」
「うん、色々ありがとう。あ、ありがとうございました」
そう言い直して梢子は頭を下げて一輝も頭を下げ返す。
「ところで佐藤さん、この間ウイナビに出てから何か心境の変化とかなかった?」
「心境の変化?」
「まあ、率直に言うけど、例えば女流棋士になりたいとかさ」
一輝の率直な質問を聞いて梢子は少し戸惑いながら答える。
「今まではそんな事全く考えなかったわけじゃないけど。お父さんの話を聞いて、大変な世界だと思ったし、私はただ楽しく将棋が指せればいいと思っていた。ただ……」
「ただ……何?」
「今年長谷君が同じクラスになって、すごいプロ棋士を身近に感じたし、それにウイナビで対局した牧野さんのことも前から将棋雑誌で知っていたし、憧れは生まれたけど、でも正直迷っているかな」
梢子の言葉を聞いた父春秋が梢子の近くに立つ。
「お、お父さん?」




