終局
夕食休憩を終え、いよいよC級2組の順位戦第1局も佳境を迎えようとしている。
そして遂に一輝が戦いを起こすべく歩をぶつけていく。
斉木は同歩と応じ、更に一輝は同角とする。角交換を強要だ。そうはさせじと斉木は3筋にいた飛車を2筋に回す。これは角を一輝がとれば一輝の飛車をそのまま自分の飛車で取り成るという手を見せたのだ。
一輝は歩を角の後ろに打ち、飛車成りを防ぐ。
斉木は角を逃がし、一輝は4五桂と桂馬を跳ねる。
ここで斉木は飛車で角を取り、一輝は同歩と応じる。飛車角交換だ。
斉木は一輝の穴熊を崩すには飛車よりも角が有力だと判断し、飛車を一輝に渡してでも穴熊崩しに挑むこととする。
一方の斉木の方の美濃囲いも飛車の打ち込みには強く、飛車だけで崩すのは難しいと考えた為、一輝に飛車を渡すことはそこまで不利な手ではないと判断した。
そこからも手は進んでいき、斉木は角を、一輝は飛車をそれぞれ相手の陣地に打ち込み、囲い崩しを試みる。
手はどんどんと進み、斉木は2枚の角で一輝の穴熊を攻撃するが、一輝の受けが決まり、攻めが止まる。
そこから一輝が反撃をし、斉木の美濃囲いはだんだんと崩れていく。
斉木も粘りを見せるが、もはや粘れないと覚悟を決め、1度離席をする。
斉木の手番である為、斉木の持ち時間は消費していく。しばらくすると斉木は盤面の前に戻り、脱いでいたスーツの上着を着直して、ゆるんでいたネクタイも締め直し、正座に座り直し、投了の意思を告げる。
「負けました」
22:00を越え、斉木が投了の意思を示し、一輝は見事、順位戦に初勝利した。
次の瞬間、斉木から声をかけられる。
「まだこの部屋の対局が終わってないから、別室で感想戦をしようか?」
「はい、じゃあ荷物をまとめて移動します」
「そーーっとだぞ、そーーっと」
斉木の言葉を聞いて、一輝は荷物を静かにまとめ、別室で感想戦を行う。
順位戦が行われている部屋とは別で空いている部屋に一輝、斉木、そして記者が1人入室し、記者が2人に声をかける。
「それじゃあ、どこからしますか?」
その声に斉木が応じる。
「じゃあ、仕掛け辺りにするか」
「はい」
そう言って2人は盤に駒を並べ先程の局面を再現する。
将棋の棋士は前例も含め無数の棋譜を記憶できると言われ、何年も前の棋譜、特に自身の対局の棋譜は瞬時に再生できるのだ。
そこから約1時間ほど、感想戦が続き、夜は更けていった。
一輝の順位戦デビューは白星に終わり、幸先の良いスタートとなった。




