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一歩の重さ  作者: burazu
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対局後の待ち人

 一輝は鎌田の銀矢倉を見て焦って攻めることなくひとまず我慢の一手を指す。8八玉だ。場合によっては囲いをボナンザから矢倉に組み直す含みも見せている。


 それを見た鎌田は4二にいた玉を3一に引いた。更に守りを強化するようだ。


 これを見た一輝は玉を7八に戻す。ボナンザに再度組み直す。


 鎌田は4二に玉を戻す。


 この一連の動きで一輝は鎌田の狙いに気付いた。千日手だ。


 千日手とは同一局面が4回続く状態をさすことであり、千日手が成立すると休憩を挟んだのちに先後を入れ替えて最初から指し直すのである。


 後手番を引いた鎌田にとって先手で戦えることは願ったり叶ったりだ。


 一方の一輝はなんとか打開し、局面を自分ペースに持っていきたい。


 とりあえず千日手を打開する為に、4六の銀を3七に引いた。一輝は早繰り銀から棒銀に切り替え、2筋3筋を銀と飛車の連携で突破する選択をしたのだ。


 鎌田は再び3一に玉を戻す。棒銀を決められると自陣の崩壊は免れないから、少しでも守りを固くするのだ。


 一輝は2六に銀を上がりいよいよ棒銀の行進が始まろうとしている。


 そこから一輝は歩などの小駒でじわじわと鎌田陣に風穴を開け、やがて鎌田玉は追い詰められる。


 もはや手がないことを悟った鎌田は投了の意思を示す。


「負けました」


 鎌田が頭を下げることで、一輝も頭を下げ、この対局は一輝の勝利で終わる。


 感想戦が始まると互いにいろいろな読み筋を話し、特に鎌田は一輝に質問を多くしている。


「例えばこの時に角を打てばどうしていましたか?」

「それなら僕も角を打ち返しますね」

「ふむふむ、なるほど」


 一輝も次戦が14:00よりある為、鎌田も気をつかい12:30頃に感想戦を終え、一輝が駒を片付けとりあえず一度全員退室する。


 軽く昼食を食べ、一輝は14:00の対局にも臨む。


 一輝にとってプロ入り後初の1日2局であったが、2局目も勝利し、なんとか無事に1日を終え、帰宅する……はずであった。


 今日の対局を終え、自宅に帰ろうとした一輝の前にある人物が現れた。


「お疲れ様です、長谷先生」


 現れたのは午前中に対局した鎌田美緒女流3冠であり、一輝は驚きを隠せない。


「鎌田さん?午前で帰ったと思っていたのに」

「実は検討室で長谷先生の午後の対局を検討していたんです」

「でも対局自体は早めに終わってさっきまで感想戦をしてたんですが」

「午前の対局で負けて、午後の対局を検討していて決めたんです」


 次の瞬間鎌田は息を呑んで一輝に告げる。


「長谷先生にお願いしたいことがあります」


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