初めての上座
対局前に上座の譲り合いというトラブル(?)があったものの、本来の様式に従い一輝が上座へ座ることで解決する。
一輝にとってはプロ入り後初の上座である為、若干緊張しているものの駒箱より袋を取り出し、紐をほどいて一輝が駒を取り出し、王将を持って駒を順番に並べていく。
駒を並べ終えると記録係が一輝の歩を5枚取り振り駒をする。
「歩が3枚ですので、長谷四段の先手番となります」
そう言い終えると記録係が駒を戻し、開始時刻が訪れ両対局者に呼びかける。
「それでは、時間になりましたので長谷四段の先手番でお願いします」
「よろしくお願いします」
そう言って両対局者は頭を下げ、対局が開始される。
一輝は早々に2六歩と飛車先の歩を突く。早々に居飛車宣言だ。
それを受け後手番の鎌田は3四歩と角道を開ける。
3手目に一輝は7六歩と角道を開け、相手の出方を見る。
待ってましたとばかりに鎌田は8八角成と一輝の角を取る。一輝は同銀と鎌田の角を取り角交換が成立する。
そして鎌田は2二銀と銀をあげる。
ここで一輝は鎌田が後手番用に一手損角換わりを用意していたことを確信する。
一手損角換わりは文字通り自分が手損をする戦法だが、別の変化が生じる為、戦法そのものが損とは言いにくいのである。
とはいえ、一輝も定跡形で迎え撃つよう駒組を進める。
鎌田は自ら角交換をして若干駒組が遅れているので一輝の方が早めに駒組を終え攻めに転じる。
ここで一輝が採用したのはまず自玉をボナンザ囲いで囲ってから早繰り銀という戦法で攻めていくという形だ。
ボナンザ囲いは7七銀、7八玉、6八と5八に金を置いて守る形であり、対一手損角換わりには有効な囲いだと言われている。
更に早繰り銀は3六歩と突き、3七銀~4八銀と早めに銀を繰り出していく戦法であり、手損を咎める意味合いが強い。
それに対し鎌田は腰掛け銀といって、銀を6四と腰掛けるがここで5三に銀を引き、銀矢倉に構える。
金矢倉と比べると銀矢倉は守備の要素が強いので一輝は鎌田は徹底的に受け潰す気だと感じる。
特に本局は持ち時間が1時間なうえ、対局中の昼食休憩もない。こちらに攻め筋を考える時間を浪費させる作戦の為とも一瞬一輝は考えるが三段リーグを戦っている鎌田がそれだけでこの作戦を選択したわけではないことも感じていた。
ともあれ先程の緊張は吹き飛び、今一輝は純粋に盤への集中を取り戻した。




