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一歩の重さ  作者: burazu
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将棋界のレジェンド

 4月のある土曜日、一輝は師匠である諸見里九段宅を訪れていた。師匠の自宅の前には既に兄弟子の西田がおり、挨拶をする。


「おはようございます、西田さん」

「おお、一輝か。師匠は今身支度をしているからあとは宮田さんと小夜ちゃんを待つだけだな」


 そうしてしばらくすると種田門下唯一のプロ棋士である宮田六段と、唯一の女流棋士である小夜が諸見里宅にやって来る。


「おはようございます」


 そうして互いに挨拶をかわすと諸見里が自宅から出て一同に声をかける。


「おおみんな来たか、あっちにタクシーを呼んであるから行くぞ」


 諸見里の誘導でタクシーを待たしてある道に向かい、全員が乗り込む。


 タクシーの助手席に小夜が座り、残りの者は後部座席に乗る。


 そして諸見里が運転手に行き先を告げる。


「ホテル椿山荘まで」

「ホテル椿山荘ですね、分かりました」


 そう言って、運転手はホテル椿山荘へとタクシーを走らせる。


 ホテル椿山荘は将棋においてはここ数年、名人戦の第1局の開催場所として選ばれており、将棋ファンにとってはまさに聖地といえよう。


 西田が一輝に対して声をかける。


「そういやあ、もう2日目だし、とっくに再開してるんじゃないのか?一輝、中継アプリを見せてくれ」


 名人戦はタイトル戦で最も持ち時間が長く9時間の持ち時間で行われる。


 その特性ゆえ、2日間かけて将棋を行い、1日目は18:00で打ち切り、その際に手番の棋士が封じ手といって、指す手を紙に書き、封をしたうえで立会人に渡し、翌朝の対局開始時に開封するのである。


 時刻を考えるとすでに再開しているので西田は一輝に中継アプリを起動するよう促し、一輝はアプリを見て驚愕する。


「え⁉」

「どうした一輝?」

「見てください、これが2日目の朝の局面ですか?」

「た、確かに⁉」


 一輝と西田のやりとりを聞いて、諸見里が言葉を発する。


赤翼(あかばね)さんが好みそうな将棋だな」


 諸見里が言う、赤翼とは現名人赤翼良介名人である。


 彼は中学生でプロデビューしており、すぐさま頭角を現していった。


 若くしてタイトルを次々と獲得していき、20代後半には七冠制覇という全てのタイトルを1年の中で防衛及び奪取をしたのである。


 現在は名人を含む3冠保持に留まっているが、それでも紛れもなく将棋界の王者であり、レジェンドなのだ。


「わしは1度だけA級順位戦を制し、赤翼さんに挑んだが簡単に跳ね返されてしまった。とんでもない棋士だ」


 一輝が興奮していた理由は名人戦だけではなく、まさにこの赤翼名人の将棋を現地で感じられるのだからだ。

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