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一歩の重さ  作者: burazu
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会長の本気

 将棋連盟の会長である佐渡高文九段より、棋将戦の大盤解説会の依頼を受けた一輝は、その佐渡より、突如将棋を指さないかという誘いも受けていた。その誘いに戸惑った一輝は佐渡に尋ねる。


「え、しょ、将棋ですか?」

「そうです、会長職と公式戦で気の休まらない日々が続きましてね、気分転換もかねてあなたのような期待の若手と指したいと思いましてね」

「いいんですか?公式戦外でしかも会長室で」

「ま、年寄りの冷や水に付き合っていただければと思ったんですが、やはり私とは公式戦以外指さないと?」


 佐渡のやや挑発じみた言い方ではあったが、一輝は意気揚々と答える。


「いえ、僕は将棋なら常に誰とでも指したいと思っています。謹んでお受けいたします」

「ありがとうございます」


 そう言って佐渡は会長室の棚から将棋盤と駒とチェスクロックを取り出す。


「チェスクロック、時間も測るんですか?」

「私も次の予定がありましてね、互いに10分づつで切れ負け将棋といきましょうか」


 普通は将棋の公式戦では持ち時間が切れると、1分ないし、30秒以内に1手指すというルールがあるが、切れ負け将棋は時間を使い切った時点で使い切った方が負けというルールなのだ。


 公式戦では採用されないが、瞬発力を鍛える為に練習将棋で採用している棋士もいるのだ。


 駒を並べ終えると、佐渡が一輝に声をかける。


「先後ですがあなたの先手で構いません」

「いいんですか?」

「あまり時間がないので、お譲りします」


 そうして挨拶をし頭を下げて対局を開始する。


「よろしくお願いします」


 早速一輝は時間が限られる為。早々に2六歩と飛車先の歩を突く。


 それを見た3四歩と角道を開ける。更に一輝も7六歩と角道を開ける。


 これに対し佐渡は8八角成と一輝の角を取る。一輝は一瞬戸惑うが一輝は同銀と角を取り角交換が早くも成立した。


 更に佐渡は2二飛車と飛車を振った。プロ間では珍しいダイレクト向かい飛車となり、一輝は度肝を抜かれる。


 一輝が度肝を抜かれたのは戦法そのものだけではなく、この戦法自体が佐渡の得意戦法である事は有名であった為、本気で自分に立ち向かってきていることを感じたのだ。


 とりあえず一輝と佐渡は応手を続けるが、会長室の扉からノックの音が聞こえ、佐渡が反応をする。


「どうぞ」


 入ってきたのは職員の今永であり、佐渡に声をかける。


「会長!そろそろ出ないと打ち合わせの時間に遅れますよ」

「おっと、私としたことが、それはまずいですね。長谷四段、申し訳ないですがこの将棋はここで終わりましょう」


 突如終了宣言をされて戸惑うが一輝としては応じる他なかった。


「あ、はい」

「ああ、盤はそのままでいいです。私が帰ってきたら、片づけますので」


 そう言って、その場にいた全員が会長室をあとにする。帰りに佐渡が一輝に声をかける。


「では、大盤解説会はよろしくお願いします」

「はい」


 そう言って佐渡は用意された車に今永と共に乗り、その場を去っていく。


 車内で今永は佐渡に尋ねていた。


「会長、まさか意図して持ち時間を間違えたのでは?」

「それはどうですかね、唯、彼の才覚は将棋史に残る程だとは感じました。ですがまだ私も簡単に負けるわけにはいきません」


 連盟会長として前途ある若者を喜ぶ一方、現役のプレイヤーとしてまだ自身が壁にならなければならないという思い。そんな相反する思いを抱える佐渡会長なのであった。

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