快進撃
小夜が伊原との対局を終えた翌日の夕方ごろ、一輝は2日後の対局に備え、研究をしていた。
そんな時に小夜から電話があり、恐る恐る一輝はスマートフォンの通話アイコンを押す。
「あ、一輝君!見たわよ中継アプリ!昨日検討室に来てたんですって?しかも私と伊原さんの対局を黒木先生と検討してたなんて、ずいぶん余裕ね。そんな調子で次の対局に勝てるの?」
一輝の予想通り、小夜がまず小言から入ってきて、一輝は遠い目をして聞いているが、次の瞬間小夜の声色が変わる。
「でもLINEありがとう。あれで大分気持ちは楽になったわ」
「小夜ちゃん……」
「だけど、もう私達にああいう事は不要だと思うわ。やっぱり勝負の世界で生きているから」
「それは……」
一輝は母より小夜が奨励会時代の自身の事を密かに気にかけてくれたお返しの意味もあったが、小夜自身が内緒にしてほしいと母に頼んでいたことなので、言いづらそうにしていた。
「それにまだリーグ戦は終わっていない。私が残り全勝して、他力になるけど伊原さんが1敗でもしてくれたらプレーオフに持ち込んで雪辱をはらすつもりでいる」
「そっか、そうだな!」
「だからもう一輝君は自分の将棋に集中して!それじゃあね」
小夜の前向きさに触発された一輝は研究に没頭し、2日後の対局に臨む。
ここから一輝の快進撃が続いた。まず2日後の棋将戦予選1回戦に勝利し、続けて翌週の皇将戦1次予選1回戦にも勝利、更に翌週の竜帝戦6組ランキング戦2回戦にも勝利し、デビューから4連勝だ。
竜帝戦2回戦に勝利して帰ろうとした頃、何者かに話しかけられる。
「一輝!」
「西田さん⁉今日は対局日じゃなかったはずじゃ?」
「お前の将棋を見に来たんだよ。週明けは俺が対局で勝てばお前と3回戦で当たるからな」
「そうでしたね、その日は学校が終わったら将棋会館に来ます」
西田は意気揚々と翌週の対局に臨む気だ。
そしてその日は訪れ、一輝は下校時に電車に乗り将棋会館に向かう途中で中継アプリを確認する。
「これは?」
そして電車が千駄ヶ谷駅に到着し、一輝は早歩きで将棋会館へと向かい、検討室へ入室する。
「一輝か、これを見ろ」
検討室にいた兄弟子が一輝に現在の西田の対局の盤面を見るよう促す。
「やっぱり……」
「ああ、西田が追い詰められている。あんな強い奴がまだ6組だなんて恐ろしいぜ」
一輝達が検討室でやり取りをしている頃、対局室で西田が投了の意思を示す。
「負けました」
次に一輝と対局をする棋士はどれほどの猛者なのか?




