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一歩の重さ  作者: burazu
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無言のプレッシャー

 関西将棋会館で繰り広げられる倉橋正一八段と真壁天馬五段の棋将戦本戦トーナメント、休憩時間が明けようかという頃に天馬が対局室に戻り、座布団に座って盤面を見つめる。


 天馬とわずかに後に戻って来た倉橋八段は座布団に座る。


 そして休憩時間が終了し、対局が再開された瞬間に倉橋が記録係に声をかける。


「すいません、お茶のおかわりをお願いします」


 お茶のおかわりをしている間、記録係は席を離れ、時計を止められなくなるが、現在は倉橋の手番である為、その間指さないという意志表示でもあるのだ。


 無論、これは暗黙の気遣いではあるが、時間で負けている天馬にとっては倉橋から余裕を感じる瞬間でもあり、心中穏やかではない。


 そしてお茶のおかわりが倉橋のトレイに置かれると倉橋は記録係に一礼し、更に声をかける。


「すいません、棋譜用紙を見せてもらってもいいですか?」

「はい」


 倉橋に促されて記録係は棋譜用紙を倉橋に渡し、倉橋は一礼した後に棋譜用紙を見つめる。


 当然プロ棋士なら、対局が始まってからの棋譜は覚えているのだが、ここで倉橋が確認しているのはこの局面までの互いの時間の消費具合である。


 残り時間自体は記録係に聞けば教えてもらえるのだが、倉橋はどの手にどれ程の時間を費やしたかの確認をしているのだ。これにより天馬にとっての研究範囲を探り、更にどこで外れ、そしてどのタイミングで迷いだしたかをもあぶりだそうとしてるのだ。


 まだ休憩時間を明けてから一手も指していないのに天馬は倉橋の無言のプレッシャーを感じており、倉橋の底が見えないでいた。


 そして倉橋は一礼して棋譜用紙を記録係に返し、ようやく一手指す。


 倉橋が選択した手は8五飛車と天馬の2五の飛車取りとし、飛車交換を迫ったのだ。


 今飛車の交換をするわけにはいかない天馬は2八に飛車を引き、飛車交換を避ける。


 そこから倉橋は更に天馬に対し攻勢に出て少しづつプレッシャーをかけていく。


 そして今度はなんと倉橋が長考に入った。


 倉橋八段の特徴として研究範囲はほとんど時間を使わずに手を進めていき、相手に時間差を大きくつけ、自分の研究範囲も外れると、長考に入り、一気に読みきろうとするのだ。


 倉橋は研究の深さ、そして中盤以降の長考による読みが高勝率の理由でもある。


 いかに有利な状況で終盤に入る事がどれほど大事かは全ての棋士が理解しているが、倉橋はそれをさらに突き詰めていこうと模索する棋士でもあるのだ。


 この長考もまた天馬にとってはとてつもないプレッシャーなのだ。

解説:久々の解説です。今回は対局中の棋譜確認について解説します。

プロは対局中の棋譜は覚えていますが、時間の消費具合を確認する為に対局中に棋譜の確認をする事があります。


これにより戦略を立案する場合があります。プロの戦いは本当に高度ですね。

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