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抗いのヒストリア  作者: ピチ&メル/三丘 洋
山岳踏破訓練編
31/72

バディの意味と、予想された夜襲と

 山岳踏破訓練の二日目の夜。

 煙幕が立ち昇った場所からできるだけ遠ざかろうと、歩くペースを上げた俺たちは少し早めに野営に入る事にした。

 今日からはさすがに『城塞生成(マルファス)』で小屋は作らない。

 普通に毛布に包まって寝るつもりである。


「じゃあ、ルナ。見張り頼むね」

「お任せください」


 グッと拳を握り締めて、何やら使命感に燃えた目をして真剣な表情でうなずくルナレシア。


「クァアア」

「ティアも頼むぞ」

「クルルル……」


 ティアの首筋を撫でてやってから毛布の中に潜り込んだ。

 刺客が襲ってくるなら深夜になるだろうと踏んで、俺が先に寝てルナレシアが後で寝るようにしている。

 今日は昨日よりも早く寝床についたので、まだ完全に日が落ちておらず周囲はまだ明るいうえに虫の声がうるさい。

 でも、前世の経験で俺は、どんな場所でも状況でも眠れる癖をつけている。

 籠城戦なんかでは、立て籠もっている砦の外で敵軍が太鼓を鳴らしたり大声で騒ぎ立てる中で眠らなければならないことが良くあった。


「本当に今夜、襲われるのでしょうか?」

「たぶんね。三日目と四日目は俺たち一年生と先輩方との接触が増えるだろうし、訓練外部の者が騒ぎを起こすなら、今日ぐらいしか無いんだよね」


 横になったままでそう答えると、俺はそう時間が経たないうちにスーッと俺の意識は眠りに落ち――目を覚ました時には、周囲は完全に日が落ちていた。

 焚き火の明かりに照らされたルナレシアの目は、とろ~んとしていて……。


「プッ、クックックッ……」

「あ、おはようございますって、イオ? もう、何で人の顔を見て笑ってるんですか!?」

 多分、もう少し起きるのが遅かったら、居眠りしてしまったんじゃないかな?

 ただ、ルナレシアの名誉のために言っておくと、昼過ぎてからの歩くペースは、俺でもきついものだった。あのハイペースに合わせたのだから、疲労困憊になっていても仕方がない。


「いや、ごめんごめん。あれ? ティアは?」

「そこで寝ています」


 見れば俺の毛布の端っこにちゃっかり潜り込んだティアがいた。


「ティアは見張りの役に立たないな」

「まだ赤ちゃんですもの。それよりももう眠らなくてよろしいのですか? 三時間くらいしか眠っていませんよ?」

「十分休めたよ。交代しよう」

「そうですか? じゃあ、私も休ませていただきます」


 さて、少し小腹が空いたので缶詰でも食べておくか。

 背嚢から肉と豆の缶詰を取り出すと、火に掛ける。

 今夜戦闘になる可能性があるので、腹に食べ物を入れておく必要がある。

 いざ襲われて権能を使うための体力が枯渇していては洒落にもならない。


「――イオ?」


 焚き火に薪を突っ込んでいると、まだ起きていたのかルナレシアが話しかけてきた。

 でも、目が今にも閉じてしまいそうになっていて、必死で眠気を堪えているのがひと目でわかる。


「疲れてるんだろう? 無理しなくていいよ。話があるなら別に明日にでも――」

「いえ、そうではなくて……」


 何だろう?


「もしも今夜、私の命を狙って来る方たちが来ましたら、必ず私も起こしてください。イオ一人だけで戦おうなんて思わないでくださいね? 私は守って貰いたいんじゃない。私も一緒に戦いたいのです。だって、私はイオの――」


 ルナレシアは一度言葉を切ると、俺の顔を覗き込んで、上目遣いに言った。


「――イオのバディ、なんですからね?」

「ああ」


 俺は頷いてみせた。


「必ず起こすよ」

「はい」


 ルナレシアは微笑むと、今度こそ目を閉じた。

 すぐに安らかな寝息が聞こえてくる。


 参ったな


 本音を言うと、俺はルナレシアを起こさずに、刺客は全て俺の手で片付けてしまうつもりだった。

 一人で権能を使って立ち回ったほうが、戦いやすいと思っていたからだ。

 でも、命を狙われているのはルナレシア本人なんだよな。

 知らないところで守られる事に不満を覚えていたのかもしれない。

 

 それに俺とルナレシアはバディだ。

 バディとは相棒。

 相棒とは対等の存在であるべきであって、片方がもう一人を庇護する関係じゃない。

 バディなら一緒になって事に当たるべきだ。


「――参ったな……」


 今度は声に出して俺は自嘲した。

 言われるまで、ルナレシアの気持ちに気づいていなかった。

 それと。


「バディか……」


 何度も言うが俺の目的は、将来この国に訪れる悲惨な未来を防ぐ事だ。

 そのために、俺は前世で殺されていたはずのルナレシアの傍にいる。彼女が生存し続けることで、俺の知る未来が変わる可能性が高いからだ。

 ルナレシアを守っているのは、彼女への同情だけではなく俺自身の目的でもあった。


 俺は手に入れた権能を使って、一人で戦うつもりでいたが考えを変えよう。

 一人でやれる事には限界がある。

 俺は平民でしか無く、何か事が起きなければ何もすることができなかった。

 前もって情報を得ることもできないため、どうしても後手後手に回ってしまう。

 でも、今の俺には信頼できそうな人がいる。

 前世で起きた内乱と、その後で起きた諸外国の介入に、その時にはこの世を去っていたルナレシアが関与する事だけは絶対に無いのだから。


 この先もルナレシアを守り続ける事になるのなら――。

 バディとして共に戦っていくのなら――。


 ルナレシアに全てを話し、協力を仰ぐという選択肢は悪い考えではない気がする。

 話してみよう。 

 バディとして。


 

 

 焚き火の明かりも届かない場所で、ボッと揺らめく炎の明かりが見えたのは日付けが変わろうかという刻限だった。


「イオニスの名において命ずる。壁よ、阻め――『光盾(オロバス)』!」


 即座に『光盾(オロバス)』の権能を発動。

 天頂から全周を半円状に覆う光の膜が生まれ――ゴウゥッ、という音とともに押し寄せてきた灼熱の炎を阻む。

 くそっ! 森の中で炎の魔法を使うなんて、正気か!? 

 自分たちだって炎に巻かれかねないというのに!


「――ルナ!」

「はいっ!」


 振り返らずに声だけをルナレシアに掛けると、ハッキリとした返事が帰ってきた。

 すぐに異変に気づいて飛び起きたらしい。


「牽制で光術を周囲に何発か放つから、敵の数がどのくらいいるか見ていてくれ。大まかでいい!」

「わかりました!」


 炎の魔法は精霊術士か魔導士のものか!?

 とにかく最初にチカッと光った場所を中心に『光塵矢(バルバトス)』を撃ち込んだ。

 光条で一瞬だけ複数の人影が浮かんで見えた。


「一、二、三、四……」


 素早く数えあげるルナレシアの声。

 その数が二桁に達したところで、背後に気配!


「ルナ!」

「きゃっ」


 振り向きざまに大剣(ファナティカー)で一閃。

 ザシュッと切ったのは何本もの蔓草だ。

 まるで生き物のようにウネウネと動いて、ルナレシアを拘束しようとしている。


「はあ!」


 気合いの声とともに蔓草をまとめて薙ぎ払う。


「――すみません。全部、数え切れませんでした」

「とりあえず数が多い事はわかったから大丈夫」


 十数名から二十名程度か。

 炎を操った魔法士と、植物を操る魔法士が一人ずつ。彼らが指揮官だろうから、二個分隊が動いている。

 たった二人の人間を狩るには、十分な戦力と言っていいだろう。

 でも、こちらも士官候補生。そして魔法士だ。

 魔法士一人は並の兵士の数倍の戦力となる。

 そういえば、ルナレシアの魔法ってどんな魔法なのだろう。

 その答えはすぐに得られる事になった。


「私の事は構わないでくださって大丈夫です」


 ルナレシアへ執拗に伸びてくる蔓草を切り払おうとしたところで、彼女はそう叫ぶと魔法を使った。


「血の契り、古き盟約、我が一族の名の下に――光在れ!」

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