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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第六章 活動域拡大編

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第98話 防衛の魔物

 空港通いも終わり、区切りがついた土曜日。

 本日は業者に頼んでいたアーケードゲームの中古筐体を引き取りに行く日。

 事前にいくつかの業者に連絡して取り置いてもらっているので、あとはお金を持っていけばいいだけ。


 さっそく竜郎は頭にニーナ、左腕で菖蒲を抱き上げ、右腕には楓を抱いた愛衣をくっ付け、取り扱っている業者の元へと何件か転移も用いて飛んで周った。


 そうして竜郎はあちこちで姿を誤魔化しながら東奔西走し、解魔法で復元魔法でも直せないような部品が欠損した物がないか確かめつつ購入していった。


 その結果。全てを購入し帰ってきた頃には、かなりの筐体を手に入れることに成功した。

 復元魔法もあるので、基板などの部品さえちゃんと揃っていれば壊れていてもいいという条件も功をなし、値段もお手頃で今では手に入らないとされている筐体まで入手してしまう。



 それからお昼ご飯を食べ終わった竜郎たちは、波佐見家のリビングで一休み。



「太鼓の鉄人とか、中古のわりに高かったなぁ」

「あははっ。でも音ゲーって直観的で分かりやすいし、異世界でもウケそうだから買っといて損はないって」



 他にも何が受けるか分からないので、昔のドット絵の単純な横スクロールものだったり、パズルゲーだったり、シューティングだったりと、出す出さないは別にして多種多様に確保するだけしておくことができた。


 あとは竜郎が復元魔法で新品にまで戻し、異世界でも使えるようにリアが改造していく。

 それができたら、ある程度のレベルを持った異世界の住人が筐体を思わず叩いても壊れないよう、月読と露出している部分を竜水晶でコーティングして補強する──という手はずになっている。

 


「けどクレーンゲームの筐体とかも、ふつうに売ってるんだね。面白そうだから、自分の分も1台買っちゃおっかな」

「なら愛衣の家も地下3階まで広げて、自分専用のゲームセンターでも作っちゃうか?」

「うーん……こっちの友達は呼べないし、そういうのは向こうの世界で建造予定のアテナ城とかに作っちゃえばいいんじゃない?」

「それもそうか」



 ちなみにカサピスティのカルディナ城、妖精郷のジャンヌ城、《強化改造牧場》内の奈々城にも遊技場はあるが、そちらはボーリングなどのアナログなスポーツなどが楽しめる環境になっているだけなので、機械的なゲームができる施設はまだ向こうにはない。



「さて筐体も手に入ったし、今日は──」

「「──イヌ見に行く?」」

「いや、それは明日にしよう。朝から行ったほうがいいだろ? 彩人、彩花」



 フローリングに寝そべりゴロゴロしているニーナ、楓、菖蒲を見ながら話していた竜郎と愛衣の元へ、豆太を抱っこしている彩人と彩花がやってきた。



「じゃあ牧場のほうに連れてって、たつにぃ」

「マメタが思いっきり走りたそうにしてるの」

「そうなのか? 豆太」

「キャンキャン!」



 プラチナ色をしていること以外は、毛並みのいい豆柴の子供にしかみえない豆太が大きく頷きながら吠える。


 今は小さな彩人たちに抱っこされていてもおかしくないサイズだが、これはスキルで縮んだ姿に過ぎない。本来なら竜郎よりも大きいのだ。

 それ故に、全てを開放し元の大きさで走り回るには、この世界は──というより日本の住宅街は狭すぎた。



「ならちょうどいい。この後、町を守ってもらうための魔物を3体孵化させようと思ってたから、そっちでやっておこう」

「あれ? もう魔卵は作ったんだ」

「学校の課題も今となってはお茶の子さいさいだし、時間はたっぷりあったからな」

「いーなー。私も《多重思考》くらいは取っておこうかな。受験には絶対に使えるだろうし」

「こっちの日常生活でもかなり便利だからな。最悪、SPを使って取得しても損はないと思う」

「だよねぇ」



 よっこらしょと立ち上がる竜郎と愛衣に反応し、ニーナは羽ばたきながら彼の頭に飛び乗った。

 楓と菖蒲も、どこにいくの? と首を傾げながらも立ち上がる。付いてくる気満々だ。


 スキル《強化改造牧場・改》を使用し、かまぼこ型の扉を開けると仲良く皆で入っていった。



「やぁっ、はっ、てゃっ!」



 入った先は大きな川も流れる広大な草原地帯。

 そこには弓を構えた愛衣の母──美鈴が、あらゆる方角に向きを変えて土の円盤を打ち出す筒状の魔道具から射出されたものを、次々と撃ち落としている姿が遠目に見えた。


 仁も美波も正和も今日は仕事だが、唯一専業主婦の美鈴は、今日このリアが作った魔道具でのクレー射撃モドキで訓練を含めた軽い運動を行っているのだ。


 ただそれは銃弾並みのスピードで飛び去る土の円盤を、目にも止まらぬ速さで弓を番えて撃ち出しているので、地球での主婦の運動のレベルは軽く超越しているのだが。


 ちなみにもっともっと遠くの方では、アーサーとウリエルが訓練と称して模擬戦でドンパチやっているので、轟音が絶えず鳴り響いている。

 ジャンヌと天照、月読は、近くに流れる川に入って、きゃっきゃと姉妹で遊んでいる。



「おお~。お母さんも、すっかり人外級のアーチャーになったもんだねぇ。

 今なら某聖杯をめぐる戦いに呼び出されても、お母さん戦えるかも?」

「今の美鈴さんの投擲や弓なんかの攻撃は強力だが、あっちはあっちでチート級の技とかあるし、どうだろうなぁ。

 せめてもっと強力な、必殺技みたいなのが欲しいところだ。

 けど、それこそ愛衣なんかは充分戦えそうな気もするな。どんな武器でも使いこなせるわけだし」

「たつろーも魔法使いまくればいける気がするね。重力魔法とか時空魔法とか、ずるすぎるし。

 というか、もはやゲームキャラと比較するレベルの私らっていったい……」



 などと架空のゲームキャラクターと戦うところを想像しながら、しばらく見学していると、時間内に射出される円盤を全て撃ち落とした美鈴がスッキリした顔でやってきた。



「愛衣たちも、こっちで運動しに来たの?」

「「僕らはマメタを遊ばせに来たのー」」

「あら、そうなのね」

「彩人と彩花はそうですが、俺と愛衣は新しい町を守ってもらうための魔物を孵化させようと思いまして」

「そりゃ、こっちの世界の外には出せないしねぇ。私も見てていい? 竜郎くん」

「ええ、もちろん」



 弓を自分の《アイテムボックス》にしまい見学モードになった美鈴を横目に、竜郎はまず最初の1体──地上の要となる竜の魔卵を取り出した。


 それは1メートルほどの、赤紫色をした水晶のような球体。


 元の大きさに戻った巨大な子狼──豆太も気になったのか、彩人と彩花を背に乗せたまま、じっとこちらを見つめながら側に来て足を止めた。



「なんか卵の時点で強そうっていうより、禍々しい気配を感じるんだけど……大丈夫なの? たつろー」

「守護者として働いてもらうなら、眷属化はしてもらうし大丈夫だよ。それにかなり優秀な魔物だしな」



 論より証拠とばかりに竜郎はその魔卵に魔力、竜力、神力──3種のエネルギーを注ぎ入れながら孵化を促していく。


 あっという間に限界値に到達し、竜の魔卵が光り輝きながら大きく膨れ上がって形を変えていく。

 目を細めながら光が収まるのを待っていると、やがてその全身があらわになった。



「シュュュュュゥーーーーー──」



 風船から空気が抜けるような鳴き声で、神格者の威圧を生まれた時から浴びせかけている竜郎の前でお腹を地につけ恭順の意を示す。



「シミュレーターからちょっとだけ変わったが、あとは概ねそのままみたいだな」

「想像していた通り禍々しい子だねぇ」

「ま、まあ、愛衣が言うように可愛らしい子じゃあないわね……。味方なら心強そうではあるけど……」



 それを一言で言い表すのなら、高さ7メートルの半竜半(サソリ)

 非常に硬そうな赤紫色の外骨格に覆われた、サソリの平たい下半身。

 その頭部に当たる部分から黒くヌラヌラと光る鱗に覆われた、翼のない竜の上半身が上に伸びていた。


 サソリの体には片側4本ずつ、先端に鋭い鉤爪がついた細長い足が生えている。

 また左右1本ずつ生えているハサミは、サソリやカニのような分厚い形状ではなく、布や紙を裁断するときに使う道具としてのハサミのように、プラチナ色に輝くその刃は薄く先端は鋭い。


 そのハサミは約200度まで開くことができ、開いたまま振り回せばそれだけで鎌のように相手を切り裂くこともできるし、開閉して相手を挟めば強力な膂力も合わさり簡単に硬いものでも切断することができる。

 余談であるが、神力を使わず普通に生みだしていた場合、このハサミは普通にカニやエビのような分厚いハサミになっていた。


 また尻尾。サソリでいう尾の先端部分は猛禽類の足のような形をした、4本の毒針がついている。

 これは相手に噛みつくように掴み深く突き刺すことも、広げて4方向に突き刺すことも可能。そこから注入される毒は体内の機能を麻痺させるので、毒に抵抗できなければ一瞬で体が動かなくなる。



「ヒヒーーン」「「────」」

「おっ、ジャンヌも気に入ったか?」



 近くで水遊びしていたジャンヌ、天照、月読も、竜の気配に誘われやってきた。


 ジャンヌが「なかなかつよそーだねー」といった感じで先輩風を吹かし近づいていけば、その底にある強大さをすぐに見抜いたサソリ竜は、小さなサイにしかみえない今の彼女に対しても腹を地面につけて平伏した。



「だけどな。サソリ部分だけじゃなくて、竜の部分もスペックが高いんだぞ」

「「そーなの?」」



 豆太のようなモフモフさも可愛さも皆無なので好意的な感情はなかったが、どういう存在なのか彩人、彩花も気になるようだ。

 竜郎はその上半身である竜について、順を追って説明していくことにする。



「まず──」



 竜の部分は、一般的な西洋竜から翼を無くしたような姿。

 恐竜のようなトカゲのような、猫背で凶悪な目をし、おでこから2本のギザギザした角を生やした黒竜だ。


 しかし一般的な西洋竜と形容したが、実は体の比率に対して両腕が随分と太い。

 さらによく観察すれば、二の腕から先にかけて違和感があるのが分かる。

 それは指を広げることもなく、ずっと握りこんだままの手。横に小さく波打つようにひかれた、1筋の亀裂。



「ねえ、パパ。もしかして、あれ腕じゃない?」

「よく分かったな。その通りだよ、ニーナ」



 竜郎がテイム契約のパスを通して指示を出すと、二の腕から拳まで伸びていた亀裂が"く"の字に開いていく。

 するとその中には、ずらりと並んだサメのような尖った歯に、赤黒い大きな舌が。


 つまり本来ある位置に1つ、腕がある場所に目や鼻のないものが1つずつと、計3つの頭を有しているのだ。


 この竜はその3つの頭からの《竜の息吹き》や《竜力収束砲》を3つ合一し、本来の3倍の威力で放つこともできる。


 さらに両腕の頭は、舌が伸びて硬化することで槍のように用いることも可能。

 舌槍から体内をドロドロに溶かす毒を注入し、中身をすするストローの役割も持っている。

 もちろん、普通に食べることだってできる。


 焼き払い突き穿つ高火力の技と、繊細で豪快な槍術を持ったドラゴンの上半身。

 切れ味抜群の2つの巨大バサミ、強力な4本の毒針が付いた尾、縦横無尽に走り回れる機動力の高い8本の足を持ったサソリの下半身。


 これだけでも地上における戦力としては十分だろう。けれどまだ、この竜はいくつもの能力を有している。



「1つ目はサソリと竜のつなぎ目にある5つの目。

 これらは暗くなるほど見通せるようになる暗黒視、遠くまで見渡す遠視、熱源を感知する熱源視、これら3種のスキルをそれぞれ別個に、あるいは同時に使うことができる。つまり目が非常にいいってわけだ」

「便利な目だね。それじゃあ、2つ目は?」

「8本の足は地面につけることで、かなりの範囲にわたって微細な振動を感じ取ることができる。

 それで近付いてくる相手の足音を感知して、敵の居場所、数を把握する。

 そして3つ目は、《無音足》と《存在希薄》というスキルによる隠密性」



 竜郎が指示を出すと、サソリ竜が《存在希薄》を発動する。

 すると竜特有の威圧感が完全に消え、その大きな体が見えてはいるのだが、少し目を離せば見失ってしまいそうな希薄な存在感となり、目に見えて隠密性が増した。


 次にわざとバタバタと足を動かしながら、前後左右に軽くステップを踏み動いてもらう。

 本来はもっと滑るように歩けるのだが、今回は分かりやすいように。


 ドタバタと足が地に着くたびに草原は抉れていくが、スキル《無音足》のおかげで足音はしなかった。


 この2つのスキルに、目や足による広範囲にわたる索敵が加われば、半端な敵なら気が付く前に後ろに回られ、いつのまにか死んでいることだろう。



「そして4つ目」

「まだあるの!?」



 町一つ守るために、どれだけ凶悪なスペックを持った竜を用意するのだと声をあげる美鈴。



「ええ、こいつは町の防衛の肝心要となる予定の守護竜です。厳選に厳選を重ねたうえで、選んだ竜なんですよ。作るのも素材の復元やらなんやらで、苦労しましたしね」



 大勢の人間の気配を嗅ぎ付けてやってくるであろう魔物たちは、やはり地に足を付けて生きる存在が一番多い。

 だからこそ(洋平)の教えを噛みしめながら、竜郎は最も気合を入れて手持ちの素材から作れる地上の守護者を探したのだ。



「それにしたってねぇ……」



 4つ目は心臓が竜の上半身とサソリの下半身と、2つあること。

 そして心臓がどちらか1つでも完全な状態で残っていれば、竜の頭部にある脳を破壊されても、全身をほぼ喪失しても再生できる強靱な生命力を持っている。



「こいつを殺そうと思ったら、再生される前に硬い鱗と外殻に守られた心臓を2つとも破壊する必要があるってことだな」

「普通に強いわ、気配は消すわ、索敵はしてくるわ、毒は持ってるわで、さらにそれ? 凄いね、この子。

 んで、実はまだなにかあったりするの? たつろー」

「ああ、もう1つある。それは産卵し親に絶対服従の奴隷となる、50センチサイズのサソリを大量に生みだせるスキル」



 その奴隷たちは竜の部分はないし性能はサソリ竜に数段劣るが、それでもサソリ部分でできることは大概できるし、その中から隊長格の子サソリを決めることで、さらに強力な6体のサソリを作ることもできる。


 またそのサソリたちとは感覚を薄らとだが遠く離れた親と共有できるので、町周辺に放っておけば索敵範囲外からでも安全に敵の所在を感知できたり、突撃させて威力偵察することだってできる。



「小さなサソリたちを町の周辺に大量に放ち、一昼夜とわずの監視体制を敷く。

 これこそ町の人々の安全を最大限に重視した、第一の防衛陣だ」



 小さなと竜郎は言うが、それでも50センチもあるサソリがワラワラと群がる様を想像し、愛衣と美鈴は鳥肌が立つ。

 愛衣は単純に気持ち悪くて、美鈴はそれに恐怖心もプラスして──。



「えっと、もう……、町を守るっていうか、魔王城でも守ってんのかって感じがするわ……」

「あはは。奇遇だね、お母さん。実は私もそう思ってたとこだよ。

 でも、たつろーなら町の人たちが恐がるかもって、多少マイルドにするかと思ってたんだけど、なにか吹っ切れるきっかけでもあったのかなぁ」

次話は金曜更新です。

残り2体は複雑な説明もないので、さらっと終わらせ話を進めていく予定です。

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