第452話 野菜探索
ちび竜たちの幼稚園のようなことをすることになったが、エーゲリアやその側近たちが、竜たちの簡単な教育をしてくれもすると言ってくれた。
他の仲間たちも気にしてくれるようなので、特に竜郎たちがやることは変わらない。
「ということで、美味しい魔物食材を探していこう。
魚介類は最後のお楽しみってことで、次のターゲットは野菜だ」
「わーい。お野菜もすっごく美味しいからね。どんな食材になるのか楽しみだなぁ」
これについては昨晩、皆で集まって会議をしたので、竜郎たちの総意である。
「一番最初に捕獲した美味しい魔物食材『ララネスト』も、魚介類系の魔物だったからな。
魚介に始まり魚介に終わる形が、最後を飾るのも収まりがよさそうだ」
「行き先はもう決まってるの?」
「ああ、昨晩のうちに生息域は確認しておいたからな。なんだか、かなりの辺境にいるっぽいぞ」
ということで、今回の野菜の魔物を創造するのに必要な、一番近い近縁種を見つけにいく旅に同行するメンバーで集まっていく。
今回共に行くのは、聖属性の人竜──アーサー。
セーラー服のような衣装に身を包む、真面目さが顔にまで出ている人化状態の竜──ミネルヴァ。
真祖系吸血鬼種の千子。
そして珍しいことに、連れていってとせがんできたのは、麒麟に似たフォルムをした邪炎のフォンフラー種──フレイムとアンドレ。
全く強くないただの野菜系モンスターを一種捕獲しに行くには、あまりにも過剰な戦力だ。
ただこれは戦いに行くというよりは、ただの小旅行。気分転換の外出という側面が強い。
今回のアーサーとミネルヴァはずっと仕事ばかりで領内に引きこもっているため、たまには外に出てきたらと、適度に休暇も取っているフローラに言われたからだ。
それをいうならウリエルもそうなのだが、アーサーとどちらも休まれると、全体に支障が出る可能性があったため、彼女は次の機会に──となった。
「最近は大分、人材も育ってきてはいるらしいんだけどな。
全部の食材を集めたら、人材方面の充実をもっと図るべきか」
「お金とかも沢山あるわけだしね」
「ただうちは特殊ですので、内部の仕事まで任せられる人材というのは稀ですが」
「外部から雇ったネオスさんは、とても優秀で助かっていますけどね」
発展速度が速すぎるために、なかなか人材不足が解消されない。
それでも身内以外に任せられる仕事は、外部の人間だけでほぼ回せるようになってきているため、これでもマシになった方なのだが。
「「ガァー……」」
「はいはい。もう行くから慌てるなって」
まだ行かないのかと急かしてくるのは、一人きりでいることを好むフレイムとアンドレだ。
この二人が何故、今回の旅についてきたがったのかと言えば、幼稚園化の波を受け、ちび竜たちだけで集められることが多くなることを察したからだ。
彼らは、生まれたばかりの皇女たちの相手をするのも面倒だ。まだ大人といる方がマシかと、竜郎たちについていくことを決めた。
こちらには同じ幼竜の楓と菖蒲もいるが、こちらは竜郎や愛衣にべったりで、二人に積極的に絡んでこないため、許容できる相手だというのも大きかったようだ。
「やっぱり定期的に、知らん場所にお出かけしたくなるなぁ。楽しみやわ」
そして千子は完全に物見遊山だ。
知らない土地に行くことを楽しみに、綺麗な顔には笑みが浮かんでいる。
「それじゃあ行こっか」
「ここで立ち話しても、野菜の魔物は手に入らないしな」
それなりに離れているが、竜郎の転移魔法で近くまで飛び、そこから空を飛んであっという間に、世界の片隅ともいうべき何もない荒野までやってきた。
見渡す限り人の気配どころか緑すらなく、生暖かい乾いた風から、水場も近くないことが分かる。
ひび割れた赤茶けた大地には、魔物の気配すらなく、とても静かな場所だ。
「えーと……こんなところにお野菜の魔物がいるの?」
「魔物自体はちらほらといるようですが、どれも植物系ではなさそうですね」
「あれぇ? おかしいな。確かにこの辺りにいるはずなんだが」
「マスターがそう言うなら、ここにいるはずだ。くまなく探していきましょう!」
「「ガァ~」」
「こっちの子らは、ちょっと嬉しそうにしとるなぁ」
「「あ、あう……?」」
フレイムとアンドレは、その静かな空間が気に入ったようで、少し機嫌がよさそうだ。
だが楓と菖蒲は、「こんなところがいいの……?」とばかりに、怪訝そうな表情をしていた。
「まぁ……《魔物大事典》が嘘を吐いたことはないし、とりあえずこの辺りを散策してみよう」
「こんなところにいるとしたら、きっとパッサパサの野菜だね。どんなお野菜なんだろ」
まだ見てからのお楽しみということで、どういう系統の野菜かも伏せている。
愛衣は頭の中で色々と予想しながら、楽しそうに竜郎と一緒に周囲に視線を巡らせていった。
…………一時間後。
「ないねぇ……」
「ないなぁ……」
…………………………二時間後。
「……ほんまにここにおるん?」
「マスターがいるというのだから、ここにいるはずだ」
…………………………………………三時間後。
「私のスキルでも、まるで見当たりませんね」
「「あうぅ……」」
その後も五時間かけて、昨晩調べた範囲を隅から隅まで探したが、竜郎の解魔法にもミネルヴァのスキルにも反応せず途方に暮れてしまう。
楓と菖蒲も「ひまー……」と、変わり映えの無い景色をずっと見ていたことでつまらなそうだ。
「「ガウガウガ~~♪」」
ただフォンフラー種の幼竜たちだけは、その静けさがどこまで続いていることに喜び、まだまだここにいたそうにしていた。
「もしかして私たちの気配に気づいて、逃げちゃったとか?」
「それならさすがに、相手が気づく前に私が気づく自信がありますが……どうなのでしょうか」
「いくら逃げるのに特化していたとしても、俺とミネルヴァから逃げるのは無理があるよな」
「マスターが間違えるとは思えませんが……」
「いや、俺だって間違えることはあるからな?」
痛いほどのアーサーの信頼に、思わず頭が痛くなりそうになったが、さすがにこれは居なさすぎた。
竜郎たちが五時間も探して、何の痕跡も見つけられないのはあまりにもおかしすぎる。
これは事前の情報が間違っていると思うほかない。
「でも確かに機能確認したときは、この辺りだったんだけどな」
「念のため、もっかい調べてみよーよ」
「それがいいだろうな」
ということで竜郎は、もう一度だけ《魔物大事典》で確認してみることに。
すると…………。
「はあ?」
「どうしはったん? 主様」
素っ頓狂な声をあげた竜郎に、千子がおっとりと首を傾げる。
「まったく違う場所になってる……」
「見間違えた……とは違う反応のようですね」
「あ、ああ。全く違う場所に移ったとしか言いようがない。
昨日もちゃんと見たから間違いないはずだ。
なのに今調べてみたら、まったく知らない場所に、たまたま移動したとか、そういう次元じゃないレベルで離れた場所に変わってるぞ……。どういうことだ」
「おのれ面妖な。マスターをたばかるとはいい度胸をしているな、その魔物どもは」
「いや、別に俺も驚いただけで怒ってはないから。
見つけたらいきなり斬りかかるとか、絶対にするんじゃないぞ」
「もちろんです」
もちろんだと思えないほど殺気をみなぎらせていたから、竜郎もそう言ったのだが、本人としてはその自覚はないようだ。
「でもまぁ、とにかくそっちに移動しよっか」
「ここにいても、何も得られるものはなさそうだしな。
またかなり離れた場所に移動することになるが、転移でショートカットすればすぐだろう」
「ほな、おちびちゃんたち、移動するで~」
「「あう!」」「「ガウ……」」
フレイムとアンドレは残念そうにしているが、楓と菖蒲はやっと別のところに行けると元気よく返事をしていた。
そうして竜郎たちは、また人気のない辺鄙な、ほぼ先ほどいた場所の裏側といっていいほど離れた場所に到着した……のだが。
「いねぇ……」
「どーなってんの?」
そこでも竜郎たちは、目的の魔物を見つけることはできなかった。
次は木曜日更新予定です!




